老朽化したインフラのメンテナンス作業を効率的に行うには

2018.03.13

老朽化したインフラにおけるメンテナンスの必要性

インフラとは「インフラストラクチャー(infrastructure)」の略で、人間の経済活動や社会生活の基盤を形成する施設や設備の総称。インフラストラクチャーという言葉はそもそも”土台・下部構造”という意味を持ち、まさにインフラは私たちの生活を支える重要な役割を果たしています。

インフラに含まれるのは、道路や鉄道、港湾、空港、上下水道、河川、ダム、送電・通信施設、発電所等のエネルギー施設といった、経済の基盤になる施設や設備です。学校、病院、社会福祉施設、公園、公営住宅など、社会生活の基盤になるものもインフラに含まれます。こういったさまざまなインフラは「社会インフラ」とも呼ばれ、ITインフラ等の言葉と区別される場合もあります。

現代の日本では基本的なインフラがきちんと整備されていますが、そんなインフラについて、今現在、メンテナンスが必要とされるのには理由があります。道路をはじめとする日本のインフラの多くは、1964年の東京オリンピック前や高度経済成長期に敷設・整備されました。つまり、建設後50年以上経過するインフラが非常に多くなってきており、今後その割合は加速度的に増えていくということです。

国土交通省のデータ(*1)によると、全国にある約40万橋の道路橋のうち、2013年時点で建設後50年以上経過したものは約28%。それが2023年時点には約43%まで増加する見込みとなっています。トンネルについては、2013年で約1万本のうちの約20%、2023年で34%のトンネルが50年以上経過すると言われます。

長年使用されてきたインフラは老朽化しているのはもちろんのこと、現代の基準から見て耐震性等の安全性が懸念される場合もあります。インフラに問題が発生すれば産業や経済、人々の生活に多大な影響を及ぼす可能性があり、実際にインフラの老朽化を要因とする事故も発生しているのが現状。早急な対策を講じる必要があります。しかし、老朽化したインフラの修理・改築やリニューアルを実行するには多大なコストを必要とし、それによる対応の遅れが社会的な問題となっているのです。

(*1)出典:国土交通省 インフラメンテナンス情報「社会資本の老朽化の現状と将来

インフラの老朽化による事故等の例

先にも述べた通り、近年はインフラの老朽化による事故などが実際に発生しています。ここではその例をいつくか紹介します。経年による劣化などは避けられないものである以上、インフラの管理やメンテナンスは徹底しなければなりません。

中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故(2012年)

2012年12月に発生したインフラ関連の代表的な事故。山梨県の中央自動車道笹子トンネルで、約140mに渡って天井板が崩落して車3台が下敷きとなり、9人が死亡、3人が負傷するという国内でも重大な事故となりました。崩落の大きな要因は老朽化とされています。また、事故の前には点検が行われていましたが、十分な検査が行わず、天井板を吊り下げるボルト耐力低下を見逃した可能性が指摘されています。

山手線(神田・秋葉原駅間)電化柱倒壊事故(2015年)

2015年4月、JR山手線の神田・秋葉原駅間において、線路脇にある架線を支える柱が倒壊し、線路を塞ぐという事故が発生しました。倒壊による直接的な被害はなかったものの、復旧作業のために山手線・京浜東北線の一部区間で9時間以上に渡って運転を見合わせ、計715本が運休、約41万人に影響が出ました。倒壊した箇所は約1分前にも電車が通過しており、もし電車と衝突していれば脱線事故につながった可能性もあったようです。

各地で発生する水道管・下水道管による道路陥没

水道管や下水道管は、インフラのなかでも古くに整備されたものが多く、各地でいつ破損してもおかしくない状況になっています。道路の陥没は、道路の下を通っている水道管が損傷し、周辺の土砂が引き込まれて道路下面が空洞化することで発生するという仕組みです。下水道管路施設を要因とする道路陥没件数は年間3,000件を超えています。走行中の車の車輪が陥没した穴にはまったり、人の身が危険にさらされたりすることもあります。

また、大阪府高槻市では2018年6月の大阪北部地震によって老朽化した水道管が破断し、道路の陥没や大規模な断水が発生したという例もありました。水道管・下水道管だけに限りませんが、このようにインフラの老朽化が地震などの災害を拡大する要因になることも意識しておかなければなりません。

インフラのメンテナンスですべきこと

笹子トンネルの事故をはじめとするインフラ関連の事故等を受け、近年はよりいっそうインフラ老朽化問題への関心が高まっています。インフラを維持していくためには、いったいどのようなことを行なっていく必要があるのでしょうか。

インフラを安全かつ長く使っていくためには、まず日頃の確実な点検と予防保全が非常に重要となります。経年による劣化をなくすことはできませんが、インフラはそう簡単にリニューアルすることもできません。問題が発生する前にしっかりと点検を行い、予防保全として損傷があれば悪化する前に修繕していく必要があります。長期的な目線でインフラの寿命をできるだけ延ばしつつ、計画的に更新していくことで、ライフサイクルコストを抑えることができるのです。

インフラのメンテナンスにはいくつかの段階がありますが、老朽化したインフラが急増している現在の状況においては、それぞれについて多面的に対応を進めていかなければなりません。まず点検や診断については、点検基準や要領の見直し等を行い、重要度の高さや老朽化の度合いに応じた対応をするようにしていく必要があります。また、より正確・効率的に点検や診断を行うために、最近ではICTやIoTといった新技術にも注目が集まっています。

補修や修繕に関しても、インフラの重要度や安全性に応じて必要な工事等を行なっていく必要があるでしょう。コストなどの問題もあり、一度にすべて対応することはできないため、ライフサイクルコストを踏まえながら計画的に取り組むことが重要です。

そして、インフラのメンテナンスは一度行えば終わりというものではないため、持続可能なメンテナンスサイクルを確立していくことも求められます。現在、市町村ごとの老朽化状況や維持管理情報などをデータ化し、同時に計画の内容を標準化・充実化していくといった取り組みが国単位で進められています。

インフラのメンテナンスにおける問題点

インフラの管理やメンテナンスの重要性が再認識されながらも、コストやさまざまな制約があるため、なかなか補修工事などが進まないのも現在の実情です。その背景には、どのような問題点が潜んでいるのでしょうか。

日本では経済状況の影響によって、インフラに対するコストが削減されています。更新時期となるインフラに対しても投資が抑制されており、老朽化対策でコストが必要となる今の状況と釣り合っていないという問題があるのです。かつては景気対策としてインフラの整備に予算が投じられていたこともありましたが、少子高齢化による人口減少なども踏まえ、今後は必要なインフラを絞り込み、新しく作ることよりも守ることに重点を置かなければなりません。

また、先に述べた通り、インフラの寿命を延ばすためには適切なメンテナンスが必要です。しかしながら、産業界からすると修繕工事は新設工事と比べて手間がかかり、コストも割高になりがちであるのにもかかわらず、利益が出にくいという状況も少なくないということが指摘されています。

さらに、現在の管理体制にも課題があります。現状として、橋梁、道路の舗装、下水道、公園などさまざまな種類のインフラにおいて、市区町村による管理が多くなっています。しかし、市町村の土木費はこの20年ほどで大幅に減少。土木部門人員の減少や平均年齢上昇、後継者不足なども深刻化しており、実際にこういった技術・資金・人材の不足が要因となって十分な対応ができていない場合も多くなっているようです。

インフラのメンテナンスを効率的に行うには

老朽化するインフラの割合が増えながらも、インフラを取り巻く状況は上記のような問題点が解消されていません。今後は少子高齢化による人手不足も予想されますので、より効率的にインフラの管理を行なっていくことが必要不可欠です。

最近では、民間企業の技術やスケールメリットを活かしてインフラを効率的に管理するために、複数年に渡って維持管理業務を包括的に民間委託する手法が取られるようになってきています。また、市区町村では人材の育成も難しいため、民間でインフラのメンテナンス等に精通した技術者を活用するなど、民間委託の普及が促進されています。

さらに、今後期待されているのは幅広い業種の参入です。これまでインフラに携わってきた発注機関や建設産業界だけでは対応が難しいということを踏まえ、さまざまな異業種が社会的な問題を解決しようと取り組んでいます。

現に、さまざまな企業や研究所、大学などにおいて、限られた人員で規模の大きなインフラの維持管理を行うための新技術の開発が進められています。なかでも期待されているのが、ロボットやICT(情報通信技術)を活用した点検・診断のシステムです。インフラ用のロボットについては、国土交通省が主導する開発プロジェクトなども存在します。コンクリート表面に吸着し、移動しながら表面の劣化状況などを計測するロボットや、ドローンで高所からの撮影を行うロボット、先進的な非破壊検査技術などが開発され、注目を集めています。

道路や橋梁、鉄道、ダムなどにセンサーを設置し、劣化や異常をモニタリングするシステムも現実化しつつあります。また、単にメンテナンスに必要な作業を合理化・省力化するだけでなく、高度な技術を用いて人間による目視・打音検査などより正確に検査を行なったり、人が入れないような場所でもしっかりと検査を行ったりと、ICTがもたらす可能性は非常に幅広いということもポイントしょう。

情報家電などをインターネットと接続するIoTが人々の生活を変えつつあるのと同じく、インフラもインターネットと常時接続し、情報交換する未来が近づいているのです。これによって、インフラのリアルタイムモニタリング、異常発生時のスピーディな対応などが可能になり、インフラの事故防止や効率的な管理の実現ができると考えられています。

インフラの老朽化は人々の生活や安全に多大な影響を与える可能性があるため、現在の状況に合わせながら正しいメンテナンスを徹底していかなければなりません。ALSOKでは、社会インフラの安全な維持管理をサポートする各種サービスをご用意しています。インフラの管理やメンテナンスなどのお悩みは、ぜひALSOKにご相談ください。