災害図上訓練(DIG)とは?効果や実施手順、実施する際のポイントなどを解説

2024.12.20更新(2018.10.18公開)

災害は、いつ・どんな状況で起こるかわかりません。万が一、災害が発生した場合にも適切に対応できるように、企業や組織において防災力を高めておくことが非常に重要です。
BCP対策に欠かせない「災害図上訓練(DIG)」は、従来の避難訓練よりも当事者意識や連帯感を持たせることができるため、積極的に活用する企業が増えています。
そこで本記事では、災害図上訓練(DIG)の概要や効果、実施手順・ポイントなどを解説いたします。

災害図上訓練では手軽に実践的な訓練ができ、想定外の対応力を鍛えることができます。企業の防災力向上のために、災害図上訓練を取り入れてみてはいかがでしょうか。

災害図上訓練(DIG)とは?

災害図上訓練は、別名「DIG(ディグ)※」とも呼ばれ、災害時に想定される危険等を参加者が地図上に書き込んでいく訓練のことです。

経験したことのない大災害をイメージしながら、居住地域や周辺地域に潜むリスクを可視化し、避難経路や避難場所などの確認、災害対応や事前対策の検討を行います。

想像しながら行う防災訓練であり、参加者のレベルに応じて問題の検討から実際の防災訓練まで幅広く応用することが可能です。ワークショップ形式で手軽に実施でき、最近では自治体などの訓練でも広く利用されています。

※DIG・・・Disaster Imagination Game=災害想像ゲーム

図上訓練と机上訓練の違い

図上訓練と机上訓練は同じ意味合いで、災害や緊急時の対応を想定して行う訓練のことです。図上演習とも呼ばれます。会議室やテーブルの上で、参加者がシナリオに基づいて議論しながら進めますが、図上訓練では、実際の地図や施設配置図などを用いて、特定の災害や緊急事態に対する対応計画の実行をシミュレーションします。

指揮命令系統の確認、避難経路や避難場所などの確認、実際の地理的条件を反映した課題解決の検討などを目的にして行い、実際の地図に書き込んでいくため、個々の居場所や生活空間を意識した実践的な訓練が可能です。

災害図上訓練で期待できる効果

災害図上訓練の目的は、身の回りで起こりうる災害の危険を見える化し、それに対する対応や対策を考えることです。従来の避難訓練では、火災・ケガ人発生などの事態はシナリオ通りに進行する場合がほとんどです。基本的な避難行動や、自衛消防隊などの担当の役割を確認できる一方、マンネリ化して参加者の緊張感がなくなってしまったり、想定外の事態への対応力が向上しにくかったりするという課題も残ります。

それに対して災害図上訓練は、与えられた災害の想定について参加者全員が自ら考え、発言・記入を行なっていきます。

ここからは、災害図上訓練を行う意義や期待できる効果について確認しましょう。

短時間や小規模でも実施ができる

大勢の参加者を集めることや大規模な準備が必要ないため、参加可能な人数・時間帯で複数回行うことができます。また、地図で訓練を行うことから準備や訓練に必要となる時間も短く、低コストであり、比較的容易に実施することが可能です。

災害発生時の行動をイメージしやすい

シナリオがある消防訓練などとは異なり、実際の地図上で災害時の最適な行動パターンを参加者全員で協議しながら進めていくため、状況を可視化でき、災害時の行動ルートや役割を想像しやすくなります。作成した地図はそのままハザードマップとなり、それを用いて災害時の対応・対策を検討するので、自然と情報の共有を行うことができます。

防災に対する社員の当事者意識を高められる

参加人数が少ないからこそ、参加者一人ひとりが自分で考えながら訓練に参加することができます。
また、シナリオが設定されていない場合でも、参加者同士で現状における不足部分や各自・各部署が何をすべきか話し合うため、訓練を通じて参加者それぞれが当事者意識を持ち、災害時の連帯感を高めることが可能です。グループで作業を行うことで、意外な発見がある場合もあります。

災害図上訓練に必要な準備

効果的な訓練にするためには、備品や会場、テーマ設定など、しっかりとした準備が不可欠です。ここでは、災害図上訓練を実施するために用意すべきものや、テーマの考え方について説明していきます。

  • 周辺の地図
  • 透明シート
  • 油性ペン
  • ベンジン・ティッシュペーパー
  • テープ類
  • 付箋
  • カラーシール(ドット)

周辺の地図

地図の大きさは畳2枚程度が目安です。テーマに応じて地図の種類や縮尺を選びましょう。

透明シート

地図上に敷き、油性ペンなどで書き込みをするために使用します。

油性ペン

地図上に敷いた透明シートに書き込みをするために使用します。書き込み内容によって使い分けられるよう、太字・細字両用の8〜12色のセットなどが便利です。

ベンジン・ティッシュペーパー

油性ペンの書き込みを修正する際に使用します。

テープ類

地図・透明シートを固定するために使用します。

付箋

地図上に何かを表示したり、意見を書き出したりするためなどに使用します。数種類のサイズ・色を準備しておくと便利です。

カラーシール(ドット)

防災拠点など、地図上のさまざまな情報を表示するために使用します。こちらも数種類のサイズ・色を準備しておくと便利です。

付箋やシールなどを効果的に使用すると見やすい地図を作成できますので、適宜取り入れると良いでしょう。

災害図上訓練実施手順

しっかりと準備をした上で、訓練を実施します。災害図上訓練を行う際の基本的な手順を確認していきましょう。

ステップ1.テーマの選定・準備

災害図上訓練の準備で最も重要となるのがテーマの選定です。地震・風水害などの対象とする災害や対象とする地域、どこまでの対応を検討するかなどを決定します。
また、実際の災害をイメージできるように、災害発生時の状況やそれにともなう被害の想定をしておくことも重要です。災害が発生した季節や時間、建築物被害、火災、道路や公共交通機関の状況、電気・水道・電話などのライフラインの状況など、細かい点まで設定しておくと良いでしょう。

ステップ2. オリエンテーション

訓練当日は、まずオリエンテーションから開始します。初めてでもしっかり参加できるように参加者に災害図上訓練とはどのようなものなのかを簡単に説明し、目的や進行のルールを確認します。

グループで地図を囲んでディスカッションするので、訓練を始める前に自己紹介やアイスブレイクを行うと良いでしょう。気軽に名前を呼びあって意見交換ができるように、名札を準備しておくのもおすすめです。

説明や雰囲気づくりが済んだら、実際の訓練に入る前に過去の災害のVTRや写真を見ながら、具体的な災害のイメージを共有しましょう。

ステップ3. 訓練の実施

災害図上訓練は、大まかに3つのステップで構成されます。目的や参加者に応じて訓練を実施していきましょう。

初級:基本地図の作成

災害図上訓練は、防災の視点から周辺地域の状況や災害に対する強み・弱点などを把握することから始まります。積極的に意見を出し合い、どのような環境で生活しているのかを確認しましょう。

まずは、周辺の自然条件や都市構造、防災資源などを地図に書き込んでいきます。市街地や海岸線・河川などを地図上にわかりやすく表示し、周辺がどのような環境なのかを把握します。その際、可能なら昔の地図などを利用して、昔の自然条件なども記載するようにします。これによって、昔の地形や地盤の良し悪しなどを把握することができます。
自然条件に続いて、公共交通機関や主要道路、広場・公園、水路などを書き込み、周辺地域の構造を確認しましょう。さらに、役場や消防署、学校、病院などの災害救援に関わる施設を地図に書き込んでいきます。

一方で、災害時にはマイナスに働く防災資源なども記載するとより効果的です。危険物の貯蔵施設、倒壊の可能性があるブロック塀・石垣、屋外広告物など、災害時の危険が潜む場所をチェックしていきましょう。

中級:想定される被害の書き込み

中級では、ステップ1で作成した基本地図をもとに、どのような災害が起こりうるのかを具体的に検討します。基本地図の上に新しく透明シートをかぶせ、大規模地震などの際に想定される被害状況などを書き加えていきましょう。
このとき、地域で調査している被害想定結果やハザードマップを活用すると効果的です。建物被害・ガケ崩れ危険箇所など、被害想定を書き込んでいきます。

さらに、周辺地域で生活している参加者ならではの想像力を働かせ、想定される被害や災害時に重要な事柄を付箋に記載していきます。これによって、地域のハザードマップだけでは網羅しきれないような、より細かなリスクを洗い出すことができるのです。

応用:実践イメージトレーニング

応用では、ステップ1・2で確認した周辺地域の防災力や想定される被害を前提として、災害発生時の具体的な対応や防災活動についてイメージトレーニングを行います。

DIGの進行役は、災害発生の時期や天候、被害状況など、あらかじめ設定しておいたテーマを参加者に提示します。参加者はその情報から、自分たちの身の回りではどのような被害が起こるのかを想像し、その事態に対してどのような行動をとるべきか検討します。

【設問例】

  • 特定ポイントで住宅火災が発生。近隣者はどのように対応すれば良いか?
  • 救急車が入れない特定ポイント付近で骨折した負傷者を発見。どう対応すべきか?

具体的に起こりうる事態に遭遇した際、どのように対応すべきかをグループで考えていきます。

さらにテーマや周辺地域の状況によっては、災害発生から数時間〜数日経過した場合を想定にしてイメージトレーニングを行うのも有効です。

ステップ4. 訓練後の評価・検証

訓練が終わったら、グループごとに訓練を通じて得た気づき(発見)を共有し、評価・検証を行いましょう。具体的には、地域の特徴や防災・災害救援に関する「プラス要素」と「マイナス要素」を整理し、その結果をグループごとに発表して討論します。

討論を通じて、参加者全員が課題や不足している点を明確にすることができ、問題意識を深められます。また、反省会を通じて共有された内容を次の防災計画や対応策の改善に役立てることが可能です。

このプロセスにより、参加者同士の協力意識を高め、防災に対する理解をさらに深める効果が期待できます。

災害図上訓練を行う際のポイント

ここからは災害図上訓練を行う際のポイントをご紹介します。

被害想定調査をしっかり行う

災害図上訓練では、実際の災害状況とかけ離れていると意味がないため、国や自治体が公表している「被害想定」「ハザードマップ」等を利用し、被害想定調査をしっかり行いましょう。

シナリオはなるべく具体的に設定する

訓練用のシナリオは、訓練参加者に災害イメージをどれだけ持ってもらえるかが重要となります。そのため、シナリオはなるべく具体的に設定しましょう。
例えば、災害の種類や規模、発生時間、被害状況、避難者数など、詳細な設定があると、参加者は現実に近い状況を想定しやすくなります。

複数回実施して検証と修正を繰り返す

繰り返し訓練を行い、各回で気づいた課題や問題点を検証し、次回に修正を加えていくことで、訓練内容をブラッシュアップしましょう。継続的な改善を行うことで、災害対応能力の向上だけでなく、参加者の意識の定着や新たな課題の発見につながります。

災害図上訓練の準備から実施までALSOKがサポート

災害図上訓練は形式化されている通常の避難訓練よりも複雑なものです。テーマの設定はもちろんのこと、ファシリテーターである進行役にもある程度の技術が必要となり、特に初めての実施では、準備の段階から専門家に依頼するのがおすすめです。

ALSOKではさまざまな防災訓練の支援を行なっており、防災対策のプロのもとで災害図上訓練を行うプログラムもご提供しています。

ALSOKが提供する災害図上訓練は、基本的な訓練の手順を踏まえつつ、お客様先の建物の図面や周辺地図を取り入れ、より具体的で効果的にイメージトレーニングをすることができます。ご準備いただいた情報や事前調査の結果をもとに訓練を設計しますので、危険箇所や備蓄品・消防用品の位置など、災害時に役立つ情報をしっかり確認いただけます。

また、訓練当日だけでなく、ご発注から準備、訓練実施までの流れもしっかりサポートします。お客様の準備は最低限で、効果的な災害図上訓練を実施することができます。

マンネリ化した防災訓練を続けているだけでは、実際の災害時に起こりうるさまざまな事態に対応することはできません。自ら考えて判断力を養う「災害図上訓練」を防災訓練に取り入れ、防災対策・防災力向上に役立てていきましょう。

さらにALSOKでは、災害時の企業における人命保護や事業継続に備えたさまざまなサービスを提供しています。

これからBCPを策定する企業のために、BCPの立案から策定、そして企業内での定着に至るまで一貫してサポートを行う「BCPソリューションサービス」では、災害にとどまらず犯罪や情報管理などさまざまなリスクを想定して事業継続を支援します。

BCPソリューションサービスでは防災マニュアル策定支援も行っており、お客様が既に作成されている防災マニュアルを検証、改善のアドバイスを行います。また、従業員が携帯できるようにポケットマニュアルの作成も可能です。ALSOKのBCPソリューションサービスは、優れたBCPの策定をサポートすることだけではなく、全従業員に意識付けを図るところまでお手伝いします。

災害などの緊急時に、すべての従業員の状況をただちに把握するための安否確認システムもご提供しています。
災害発生時にALSOK安否確認サーバからすぐ安否確認メールが自動送信され、確実・効率的に各従業員とコンタクトをとることが可能です。

また、一斉送信される自動送信メールに加え、管理者が任意で特定の関係者に緊急連絡を行える仕組みも備えているため、近年増加しているテレワーク従事者の状況確認や、何らかの業務トラブルが発生した際にも確実な情報伝達を可能にしています。

まとめ

災害図上訓練(DIG)はBCP対策に欠かせないものです。災害図上訓練(DIG)は従来の避難訓練より参加者に当事者意識を持たせることができ、より実践的な訓練が可能です。企業の防災力向上のために災害図上訓練をはじめ、災害時に備えたBCPソリューションサービスや安否確認サービスなどを適宜活用し、万が一、災害が発生した場合にも人命を守り、二次被害の拡大抑止と事業継続に取り組める防災体制の構築を図っておきましょう。