インフラ老朽化による問題とは?事故事例や効果的な対策方法を解説

2024.10.31更新(2018.03.13公開)

日本では、インフラ設備の老朽化が深刻な問題となっており、老朽化が原因で大きな事故が発生した事例も少なくありません。トンネルや橋梁、上下水道といった公共インフラの多くは高度成長期に整備され、現在では老朽化が深刻になっています。老朽化したインフラ設備は、必要な点検やメンテナンスが十分に行われないと、事故や日常生活への影響などのリスクが高まります。
本コラムでは、インフラ老朽化の問題や事故事例、効果的な対策方法などを解説します。

インフラの老朽化問題とは?

インフラとは「インフラストラクチャー(infrastructure)」の略で、人間の経済活動や社会生活の基盤を形成する施設や設備の総称です。インフラに含まれるのは、道路や鉄道、港湾、空港、上下水道、河川、ダム、送電・通信施設、発電所等のエネルギー施設といった、私たちの生活を支える施設や設備です。

インフラ老朽化問題とは、これらの公共インフラが老朽化することで機能や安全性が低下することを指します。インフラの老朽化問題はライフラインの寸断や人命に関わる事故に繋がる可能性があるため、継続的に取り組むべき重要な課題であるといえます。

インフラ老朽化問題が注目されるようになった背景

インフラ老朽化問題が注目されるようになった背景として挙げられるのが、2012年12月に発生した山梨県の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故です。老朽化が原因で約140mにわたって天井板が崩落して車3台が下敷きとなり、9人が死亡、3人が負傷するという国内でも稀に見る大事故となりました。事故前には十分な点検を行っておらず、天井板を吊り下げるボルト耐力低下を見逃した可能性が指摘されています。

この事故をきっかけに、国は5年に1度のトンネルや橋の点検を義務化。その結果、修繕の必要がある老朽化したインフラが多く見つかり、適切な維持管理と老朽化の早期発見が重要視されました。

日本でインフラ整備が必要とされる理由

現代の日本では基本的なインフラがきちんと整備されていますが、そんなインフラのメンテナンスの必要性が今関心を集めているのには理由があります。

完成から50年以上経過している建築物が多い

道路をはじめとする日本のインフラの多くは、1964年の東京オリンピック前や高度経済成長期に敷設・整備されました。つまり、建設後50年以上経過するインフラが非常に多くなってきており、今後その割合は加速度的に増えていくということです。

国土交通省のデータによると、全国にある約73万橋の道路橋のうち、2020年時点で建設後50年以上経過したものは約30%でした。それが2030年時点には約55%まで増加する見込みとなっています。トンネルについては、2020年で約1万1千本のうちの約22%、2030年で約36%のトンネルが50年以上経過するといわれます。

しかし、老朽化したインフラの修理・改築やリニューアルを実行するには多大なコストを必要とし、それにより対応に遅れが生じているのが現状です。長年使用されてきたインフラは老朽化しているのはもちろんのこと、現代の基準から見て耐震性等の安全性が懸念される場合もあります。実際にインフラの老朽化を要因とする事故も発生しており、早急な対策を講じることが求められています。

出典:国土交通省 インフラメンテナンス情報「社会資本の老朽化の現状と将来」

自然災害が多く劣化が進みやすい

昨今、日本では地震・台風・豪雨・津波などの自然災害が頻繁に発生しています。災害によって大きな被害が引き起こされ、ダメージを受けた施設や設備の老朽化がさらに進行する事態となっています。
また、日本は国土面積の4分の3が山地で流れが急な川が多く、地形や地質の特徴から自然災害が非常に多い国といわれています。災害そのものへの備えとしてもインフラが果たす役割は大きく、災害リスクの高い地域への人口の集中化といった社会背景も相まって、インフラの整備に関心が集まっています。

インフラ老朽化が原因での事故等の例

先にも述べた通り、近年はインフラの老朽化による事故などが実際に発生しています。ここではその例をいつくか紹介します。経年による劣化などは避けられないものである以上、インフラの管理やメンテナンスは徹底しなければなりません。

【事例1】愛知県での大規模漏水事故(2022年)

2022年5月17日、愛知県の矢作川にある農工業用水を供給する取水施設の「明治用水頭首工(めいじようすいとうしゅこう)」で、大規模な漏水事故が発生し、矢作川からの取水が停止しました。明治用水頭首工は矢作川から取水し、愛知県の西三河地域における農業用水や工業用水を供給する重要な施設です。取水が停止したことで、この地域で水を利用する多くの事業や農業が深刻な被害を受けました。
施設は老朽化が進んでおり、事故発生当時も設備の更新が検討されていたものの、事前に十分な対策が講じられていなかったために、結果的にこのような大規模な漏水事故が発生したと考えられています。

【事例2】和歌山県での水管橋崩落(2021年)

2021年10月3日、和歌山県和歌山市において、紀の川に架かる「六十谷水管橋」が崩落しました。六十谷水管橋は紀の川以北地域への唯一の送水ルートでしたが、吊材が破断し、7径間のうち4径間目が崩落。これにより市内の約6万世帯(13万8,000人)が約6日間断水状態の生活を強いられるという重大な事故となっています。
事故後の調査によると吊材の腐食や破断が確認され、適切な点検・メンテナンスが行われていなかったことが原因とされています。

インフラ老朽化対策における課題

インフラの管理やメンテナンスの重要性が再認識されながらも、コストやさまざまな制約があるため、なかなか補修工事などが進まないのも現在の実情です。その背景には、どのような問題点が潜んでいるのでしょうか。

財源不足

老朽化対策は大きなコストが生じる一方で、管理をする国や地方自治体などが十分な財源を確保できないといった財政面の課題があります。インフラの寿命を延ばすためには適切なメンテナンスが必要です。しかし、産業界からすると修繕工事は新設工事と比べて手間やコストがかかるのにもかかわらず、利益が出にくいということが指摘されています。かつては景気対策としてインフラの整備に予算が投じられていたこともありましたが、少子高齢化による人口減少なども踏まえ、今後は必要なインフラを絞り込み、新しく作ることよりも守ることに重点を置かなければなりません。

技術職員不足

さらに、現在の管理体制にも課題があります。橋梁、道路の舗装、下水道、公園などさまざまな種類のインフラにおいては、自治体による管理が主流となっています。しかし、先述の予算面だけでなく、土木部門でインフラの管理を担う技術職員の減少や平均年齢上昇、後継者不足なども深刻化しています。実際にこういった人材や技術の不足が要因となって十分な対応ができていないケースも多くなっているようです。

インフラ老朽化対策を効率的に行うポイント

インフラ関連の事故等を受け、近年はより一層インフラ老朽化問題への関心が高まっています。今後は少子高齢化による人手不足も予想されるので、より効率的にインフラの管理を行っていくことが必要不可欠です。インフラを維持していくためには、いったいどのような対応が必要なのでしょうか。

定期的な点検と予防保全

インフラを安全かつ長く使っていくためには、まず日頃の確実な点検と予防保全が非常に重要となります。経年による劣化をなくすことはできないため、問題が発生する前にしっかりと点検を行い、予防保全として損傷があれば悪化する前に修繕していく必要があります。長期的な目線でインフラの寿命をできるだけ延ばしつつ、計画的に修繕・更新を重ねていくことで、ライフサイクルコストを抑えることができるのです。

そして、インフラのメンテナンスは持続可能なメンテナンスサイクルを確立していくことも求められます。現在、自治体ごとの老朽化状況や維持管理情報などをデータ化し、同時に計画の内容を標準化・充実化していくといった取り組みが国単位で進められています。

優先度を決めて計画的な補修・修繕

インフラのメンテナンスにはいくつかの段階がありますが、老朽化したインフラが急増している現在の状況においては、それぞれについて多面的に対応を進めていかなければなりません。まず点検や診断については、点検基準や要領の見直し等を行い、重要度や老朽化の度合いに応じた対応を行っていく必要があります。

補修や修繕に関しても、インフラの重要度や安全性に応じて優先度を決めて対応する必要があるでしょう。コストなどの問題もあり、一度にすべて対応することはできないため、ライフサイクルコストを踏まえながら計画的に取り組むことが重要です。

民間企業への業務委託

最近では、インフラを効率的に管理するために、維持管理業務を包括的に民間委託する手法が取られるようになってきています。自治体では人材の育成も難しいため、民間企業の技術やスケールメリットを活用するなど、民間委託の普及が促進されています。

さらに、注目されているのは幅広い業種の参入です。これまでインフラに携わってきた建設産業界などだけではなく、さまざまな業種の企業が参入し、その技術や知見を活かして老朽化したインフラの維持管理という社会的な問題に取り組むことで、効率化や低コスト化が期待されています。

近年のインフラ老朽化対策に活用されるITテクノロジー

さまざまな企業や研究所、大学などにおいて、限られた人数で規模の大きなインフラの維持管理を行うための新技術の開発が進められています。なかでも期待されているのが、ロボットやICT(情報通信技術)を活用した点検・診断のシステムです。

ドローン点検作業

AIの進化により、ドローンを活用した高所からの撮影が注目されています。ドローンを活用することで足場を組む作業が不要となり、従来人間の力だけでは実現するのが難しかったような高所でも安全かつ正確な点検が可能です。ドローンの活用は、インフラ整備において対策が必要な箇所を早期発見し、かつ現場の担当者の負担軽減にも役立つと期待されています。

AI画像診断

AI画像診断は、AI画像解析により異常箇所を検出する技術です。ドローンで撮影した画像データなどからインフラ施設・設備の異常を発見するため、多くの現場で活用されています。AI画像診断により、人間の目では見つけられない劣化・破損や、大量の画像を正確に診断することが可能となっています。

モニタリングシステム

道路や橋梁、鉄道、ダムなどにセンサーを設置し、劣化や異常をリアルタイムでモニタリングするシステムが普及しつつあります。これにより、従来の目視や打音検査では難しかった正確な状態把握が可能となり、人が入れないような危険な場所でも検査を行うことができます。さらに、ICT(情報通信技術)の進化により、インフラの保守作業は合理化・省力化されるだけでなく、より精密な診断ができるようになっています。

情報家電などをインターネットと接続するIoTが普及したのと同じく、インフラもインターネットと常時接続し、リアルタイムで情報をやり取りする管理方法が広がっています。これによって、インフラのリアルタイムモニタリング、異常発生時のスピーディな対応などが可能になり、インフラの事故防止や効率的な管理の実現が可能となっています。

効果的なインフラ維持管理で老朽化による事故を未然に防ごう

今回はインフラの老朽化問題について、インフラ整備の必要性や事故事例、老朽化対策を効率的に行うポイントをご紹介しました。インフラの老朽化は人々の生活や安全に多大な影響を与える可能性があるため、現在の状況に合わせながら正しいメンテナンスを徹底していかなければなりません。
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