海外進出をする企業が行うべきリスクマネジメント

2023.10.27更新(2017.07.11公開)

中小企業を含めた日本企業の海外進出が拡大しています。かかる状況下、懸念されていることが国内と異なるリスクに直面し、撤退を余儀なくされる企業が増えていることです。この記事では海外進出時のリスクマネジメントとして、企業がとるべき安全対策について解説します。

現代における海外進出のメリット

グローバル化が進んだ現代においては、金やモノなど、さまざまなものが国境を越えています。世界的に有名なブランドが日本に多数入ってきているのと同じく、日本の企業が海外進出で成功を収める例も聞かれるようになっており、グローバル展開を中長期目標として掲げている企業もあるでしょう。今や企業にとって海外市場は身近な存在であり、大企業から中小企業に至るまで海外進出で売り上げを拡大できる可能性が高まっているのです。

周知の通り、日本は少子高齢化・人口減少等によってマーケットが縮小、GDPは長らく横ばいが続いており、2009年以降は緩やかに微増するにとどまっています。さらに価格競争力や技術力を誇る外資系企業が国内市場に参入しており、多数のライバル企業が存在します。そのような状況の国内と比べると、海外市場は規模が大きく、年率数パーセントずつ成長しています。国にもよりますが、海外進出はコスト面のメリットも大きく、人件費や原材料などの生産コストを削減できるほか、税率の低い国で事業を行えば利益が上がります。また、市場や利益の大きさだけでなく、海外進出することによって現地での認知度が上がり、販路拡大できるという可能性もあるでしょう。

さらに、国内から世界へ視野を広げることで資金や人材が集まりやすくなるといった利点もあります。例えば、アメリカのベンチャーキャピタル(VC)の投資金額総額は日本の10倍以上と言われ、大きな資金を集めることでより大きな事業が可能になります。そして、世界レベルで事業を展開すれば、世界レベルで優秀な人材を獲得することにもつながり、より強い企業を作っていくことができるでしょう。

海外における安全対策の必要性

世界情勢を見てみると、イスラム過激派によるテロや武装勢力間の衝突、自然災害、感染症など多くのリスクが存在します。日本人も例外ではなく、テロや武装勢力間の衝突などさまざま事件・事故に巻き込まれたり、標的にされたりする可能性があります。
そのため、海外では観光に訪れる旅客だけでなく、事業のために滞在する邦人に対しても安全対策を講じることが必要です。外務省が提供している「中堅・中小企業海外安全対策ネットワーク」による安全対策支援や「官民合同テロ・誘拐対策実地訓練」、「安全対策セミナー(国内)」などを活用し、しっかりと安全対策に取り組みましょう。

リスクマネジメント不足による海外事業からの撤退

このように、海外進出にはさまざまなメリットや魅力があり、チャンスをつかめば大きな成功を得られる可能性があります。その反面、海外進出を果たしたものの問題に直面する企業も少なくありません。

帝国データバンクの調査(2014年)によると、海外に直接進出している企業1,611社のうち、実際に撤退した、または撤退を検討したことがあると回答した企業は約4割に上ります(*1)。
また、経済産業省のデータでは、2020年度の現地法人数が25,703社であるのに対して、同年度に進出先から撤退した現地法人数は770社(そのうち、製造業が305社、非製造業が465社)にのぼります。およそ3%の企業は海外から撤退しているのです(*2)。

出典:経済産業省「第52回 海外事業活動基本調査概要」

撤退理由は「環境の変化等による販売不振」「海外展開を主導する人材の力不足」「現地の法制度・商習慣の問題」など企業によってさまざまですが、事前の備えや問題発生時の対処が不十分で損失を被り、結果的に撤退するケースもあります。海外では文化や商習慣、法制度、賃金体系などあらゆる事情が国内とは異なり、撤退にまで至らなくとも国内では起こらないような問題が発生する恐れがあります。

そのため、海外進出する際は、現地に存在するリスクについてしっかり把握し、対策を組み込んだ進出計画を策定することが非常に重要です。目の前にある利益を性急に求めるのではなく、しっかりとしたリスクマネジメントと長期的ビジョンを持って取り組まなければなりません。

海外進出で想定されるリスク

海外進出で発生しやすいリスクは、主に次の3つに分けることができます。それぞれどのようなリスクなのかを確認しておきましょう。なお、アメリカや欧州などの先進国に進出した場合と、アジアやアフリカなどの発展途上国に進出した場合では発生しやすいリスクの傾向が異なりますので、それぞれに対策を立てることが大切です。

カントリーリスク

カントリーリスクとは、その国や地域の情勢が変化することによって企業が受けるリスクです。主に政治・経済・社会といった分野がカントリーリスクに含まれます。政治にまつわるリスクは現地の政治的基盤が安定していないために生まれ、例えば政権交代によって進出企業の扱いががらりと変わることなどがあります。それまで顕在化していなくても、反政府暴動など、将来的なトラブルの火種をはらんでいる国などもあるので注意しましょう。

経済的なリスクとしては、国債の債務不履行やバブル崩壊のような国家レベルの経済問題などが挙げられます。電力・通信・用水・輸送といったインフラの未整備や競争法等の不備なども経済的な要因です。
社会にまつわるリスクは、文化や歴史的背景、宗教等によって引き起こされます。先にも触れたような紛争や治安の変化のほか、反日感情によって現地の日系企業が暴動に巻き込まれる例もあります。

カントリーリスクへの対応

海外進出先の情勢や動向の変化によって生じるカントリーリスクに対応するには、現地の情報とそれを元にしたリスクマネジメントが欠かせません。状況は刻々と変化するため、その都度情報をアップデートすることも必要です。現地の関係機関などと連携し、新たに生まれ続けるカントリーリスクへの対処を怠りなく実行することが大切です。

セキュリティリスク(人的・物的セキュリティ)

セキュリティリスクとは、企業や従業員の安全面に関するリスクです。テロや誘拐などのほか、麻薬や売春なども危険要因となります。
それらのなかでも、手荷物の置き引きやスリ・ひったくりなどは海外において日本人が特に見舞われやすいトラブルです。今も海外の一部では、日本人はお金持ちで高級品を持っているという印象が強く、日本人だと分かるとターゲットにされてしまう可能性があります。

自然災害もセキュリティリスクのひとつです。不可避な面も大きい一方、防災インフラが弱いために予想以上に被害が甚大になる場合もあり、事業を存続させるためにはきちんと対策を立てる必要があります。また、衛生・医療環境が整っていないために集団感染が起こり、従業員の身にも危険が及ぶ恐れがあります。

セキュリティリスク(人的・物的セキュリティ)への対応

人やモノに関するセキュリティ対策は、やはり現地でのサポートが大切です。オフィスや住居を選ぶ時点で危険エリアの情報を確かめることや、保険への加入は必ず行いましょう。また、拠点への常駐警備や機械警備の導入、AEDの設置、安否確認システムなども整備することが必要です。過剰と思われるほどの対策でなければ、役立たないと考えたほうが良いかもしれません。

セキュリティリスク(サイバーセキュリティ)

また、近年では情報セキュリティのリスクも意識しなければなりません。アジアではインターネットユーザー数が急増しており、セキュリティ構築の遅れによるサイバー攻撃やマルウェアへの感染、情報漏えいといった可能性があります。
これらの情報セキュリティに関する事故は、世界中で1件あたりの規模が年々拡大し、深刻化しています。

また近年では、従業員や取引先社員などの内部犯行によるセキュリティ事故の発生件数も増加傾向にあります。

セキュリティリスク(サイバーセキュリティ)への対応

サイバー攻撃のリスクに対処するには、海外進出のローンチ段階できちんと対策を講じておくことが重要です。セキュリティシステムを導入し、外部からのサイバー攻撃やマルウェア感染による情報漏えい、クレジットカード情報のデジタルスキミングなどにしっかり対処してください。
また、オンライン上での監視を強化しても、内部犯行によってセキュリティ事故が発生する可能性もあります。現地で従業員を雇う場合などは、社員教育などを適切に実施することも大切です。自社のセキュリティに関するガイドラインを整備するとともに、現地の従業員にも徹底周知しましょう。

オペレーショナルリスク

オペレーショナルリスクとは、実際の事業展開や日常的な業務遂行などの場面で発生するリスクです。貿易における輸出入規制や投資規制、製造における操業規制、原材料・部品調達が困難になることなどが代表的なオペレーショナルリスクとして挙げられます。

また、販売面では代金回収が困難になる、進出先の知的財産に関する法制度を十分に理解していないなどで知的財産権が侵害されるケースもあるでしょう。社内においても、人材不足や賃金上昇による採算悪化、労働争議によるストライキ・デモといった労務的リスクなど、企業のオペレーションに関わるリスクは多数存在します。

オペレーショナルリスクへの対応

オペレーショナルリスクの特徴として、事案そのものは軽微に思えても、金銭的・物的被害にとどまらず、企業イメージの損失など甚大な損害を被る可能性があります。
オペレーショナルリスクへの対処では、現地の風土や情勢に合わせた対応を徹底することが重要です。
現地に詳しい専門家による各種コンサルティングなどを必ず取り入れましょう。

海外進出のリスクマネジメントのPDCAサイクル

海外進出の計画・準備の段階はもちろん、操業を開始してからも事業を定着させ、継続していくために終始リスクマネジメントが欠かせません。進出前や手続き段階においては、海外進出の目的や自社の強み・弱みなどを明確化させつつ、国内での情報収集・海外での現地調査などを行い、リスクなどを踏まえて当初の進出計画をブラッシュアップしていきます。また、いざリスクに直面した際は、日本の本社側とも連携しながら対処しなければなりませんので、本社側と海外拠点側それぞれの役割分担も決定しておきましょう。

そして、操業開始後はPDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルに基づき、継続してリスクマネジメントを運用していきます。PDCAサイクルは1年かけて1周させるのが一般的です。事業計画の立案とともに、リスクマネジメントも翌年度の計画を立てるとよいでしょう。

Plan:リスク洗い出し・対策の検討

まずはその時点において、自社にどういったリスクが存在するのかを洗い出して把握します。リスクの重要度に応じて優先順位を決め、具体的に対策の内容、いつ・誰がやるかなどを決めていきましょう。

Do:対策を実施

対策が決定したら、計画をもとに実施していきます。海外拠点のみで要員が足りない場合は、本社側がしっかりとバックアップをしていかなければなりません。

Check:進捗を確認

進捗確認のタイミングをあらかじめ設定しておき、その時期になったら計画に遅れや問題がないか、そしてその対策が有効かどうかをチェックします。

Action:取り組み改善

現状を踏まえ、スケジュールを調整したり、これまでの取り組みを振り返ったりして、次年度のリスクマネジメントについても検討していきましょう。

海外進出のリスクマネジメントで大切なこと

確実なリスクマネジメントを行うには、事前に海外進出の目的を明確にした上で、しっかりと計画をまとめ上げておく必要があります。そしてリスクマネジメントにはコストがかかる場合もあるので、海外進出全体として適切な費用対効果が得られるか検証することも重要です。さらに、緊急時の安全確保や、被害軽減のための緊急対応プランも用意します。計画が定まったら、社内体制の構築とマニュアルを整備して社員教育を行うことになります。

海外進出のノウハウがまだ確立していない企業の場合は、こうした安全管理・安全対策を構築するために、外部の海外進出コンサルティングサービスを利用するのが有効です。安全対策診断やセミナー、マニュアル作成のサポート、社内研修を通した個別アドバイスなど、海外進出時のリスクマネジメント、海外セキュリティに関する支援を受けることができます。

(*1)出典:帝国データバンク産業調査部「海外進出に関する企業の意識調査」(2014年)
(*2)出典:経済産業省「第51回 海外事業活動基本調査概要」(2021年7月1日調査)
(*3)出典:中小企業庁「中小企業白書(2014年版)」(2014年7月1日)

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