ファシリティマネジメント(FM)とは?重要性や具体例を解説
2024.10.31更新(2017.12.12公開)
近年注目を集めているファシリティマネジメントは、土地や施設、設備の安全かつ最適な管理を行うために欠かせない業務です。効率的かつ効果的な運用が求められ、その結果、建物や設備の寿命を延ばすだけでなく、お客様の安全・安心にもつながります。
本コラムでは、ファシリティマネジメントがどのようなメリットをもたらし、なぜ重要なのか、そして具体的な取り組みについて解説していきます。
ファシリティマネジメント(FM)とは?
「ファシリティマネジメント(FM)」とは、建物や土地、設備などの施設資産を総合的に管理・活用することを指します。現代の建物運用において、ライフサイクルコストと並んで非常に重要な考え方のひとつです。ファシリティ(Facility)は「施設・設備」を意味し、ファシリティマネジメントでは、施設の運用において最適な環境を整え、効率的に管理することを目的としています。これにより、施設の運用を最適化し、コスト削減や効率化を図ることが可能になります。
かつての日本においては建物を長く使うという意識が薄く、バブル期までは「スクラップ&ビルド」という考え方に基づき、老朽化した建物はすぐに取り壊して新しい建物を作ることが主流でした。しかし近年では経済の変化等によって、建物を長い年月使用する考え方へと移り変わり、企業等にとってファシリティ(=施設や設備等)はヒト・モノ・カネ・情報と並ぶ重要な資源とされ、経営において重要な役割を担うようになっているのです。
「ファシリティマネジメント(FM)」と「施設管理の違い」
従来の「施設管理」では、基本的には現状を優先する考え方で建物を維持・管理していく手法が採られてきました。たとえば「ビル管理」と聞けば、現状を保つことを第一に修繕や美化を行うことを連想する方が多いでしょう。
それに対し「ファシリティマネジメント」とは、ライフサイクルや将来も視野に入れ、経営的視点で改善ポイントを提案することまで行います。さらにその上で、ビル・施設という資産全体をより良く活用できるよう、最大限の取り組みを行っていきます。
日本のファシリティマネジメントでは、経営戦略に則りPDCAサイクルを回し、建物等の運用方針から効率化・低コスト化を図っていきます。もちろん改善に取り組むだけでなく、日常的な清掃・保全など維持管理の合理化までを含む、トータルなマネジメントが行えると考えるとよいでしょう。
建物を適切に運用することの重要性
商業施設やオフィスビル等の各種ビル、マンションなど、建物を安全・快適かつ長期的に運用していくためには適切な管理等を行う必要があります。
例えば、鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造のマンションの耐用年数は47年。しかしこの耐用年数は建物の寿命とイコールではなく、資産価値を計算するために便宜上定められた年数です。適切なメンテナンス等を行えば、コンクリート造の建物自体は100年以上でも維持できるとされます。
このように建物を長い期間利用・運用するために必ず考えるべきことが、「ライフサイクルコスト(LCC)」です。ライフサイクルコストとは建物の企画から解体までの全段階で発生するコスト総額を意味し、それを最適化していくことを「ライフサイクルマネジメント(LCM)」と呼びます。
上記のように、建物は竣工をスタート地点として数十年~100年に渡って運用していく必要がありますが、そのライフサイクルコストのなかでは、清掃・設備管理・警備等の保全コストや修繕コスト、水道光熱費等の運用コストなど、ランニングコストが大きな割合を占めます。建物の規模などにもよりますが、設計や建設にかかるイニシャルコストはライフサイクルコストの一部にすぎません。そういったことを考えれば、長期的視野を持って建物を運用していくことがいかに重要かわかるでしょう。
そして何より、商業施設やオフィスビル、マンションといったあらゆる建物は、お客様や利用者が安心して快適に過ごせる環境が不可欠です。適切な運用や管理を行うことは、建物を長持ちさせたり、コストを削減したりするためだけでなく、建物の存在価値にも直結するといえるでしょう。
このようにさまざまな建物の運用や管理を適切に行う手段として、「ファシリティマネジメント」という方法があります。
ファシリティマネジメント(FM)のメリット
ファシリティマネジメントの考え方は、さまざまな組織が運用する建物にとって重要な役割を果たします。企業のオフィスビルだけでなく、商業施設や宿泊施設、行政施設、病院、学校など、公共の施設においてもメリットが期待できるでしょう。
施設管理のコスト削減
施設管理におけるコスト削減の一環として、設備や機器の見直しを行うことで業務の効率化が図られ、人件費や運用コストの削減が期待できます。また、オフィスのレイアウトを見直すことで、不要なスペースを減らし、無駄な賃料の支払いを抑えることが可能です。余剰スペースを有効に活用することで、賃貸面積や建物の規模を最適化し、さらなるコスト削減につながるでしょう。
不要なコスト削減は、企業の収支バランスを健全に保つための重要な取り組みです。多くの場合、人件費削減が注目されますが、施設管理費もまた人件費に次ぐ大きな固定費となっており、ファシリティマネジメントによるコスト削減が効果的です。
資産価値の維持
ファシリティマネジメントは適切な管理や運営を通じて、固定資産の資産価値の低下を抑える施策としても重要な役割を果たしています。通常、固定資産の価値は新築から時間とともに減少しますが、定期的なメンテナンスや改修を行うことで劣化を抑え、資産価値を維持することが可能です。
さらに、固定資産の価値を維持するだけでなく、空きスペースを有効活用してテナントとして貸し出すなど収益化を図ることで、資源を無駄にせず企業の経営力強化にも貢献できます。
施設関係者の生産性向上
施設や設備を適切に改善することで、従業員の労働環境を向上させ、生産性を高めることが可能です。
例えば、オフィスの空調設備を見直し、快適な温度を保つことで集中力が持続しやすくなり、仕事の効率が上がります。
さらに、共用のリラックススペースやリフレッシュエリアを設けることで、従業員が休憩時間にリラックスでき、リフレッシュ後に業務へ集中しやすくなります。意見交換やアイデアの共有も自然と行われやすくなり、チームの一体感も向上するでしょう。
こうした施策は、従業員のモチベーション向上にもつながり、全体の業務パフォーマンスを引き上げることにつながります。
CSRへの貢献
施設や設備の見直しは省エネ・省資源、CO2排出量削減、脱炭素化などにもつながり、企業としての信頼性向上を目指すことができます。例えば、オフィスビルで使用している空調や照明を省エネルギー性能の高いものに置き換えることで、電力消費量を削減し、CO2排出の抑制が可能となります。こうした取り組みによって、企業はカーボンフットプリントの削減やカーボンニュートラルの達成に近づき、環境保全に寄与しつつ社会的な評価も高められるでしょう。
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ファシリティマネジメントの具体的な取り組み
ここからはファシリティマネジメントにおける具体的な取り組みについてご紹介します。
施設や設備の定期的なメンテナンス
ファシリティマネジメントにおいても、従来の施設管理同様、設備や施設の定期的なメンテナンスの実施が必要となります。これにより大規模修繕時のコストや資産価値の低下を抑えることが可能です。また、メンテナンスが不足すると設備不良による業務の滞りが発生するおそれもあるため、業務効率化の観点からも重要といえます。
防災・防犯対策
ファシリティマネジメントにおいて防災・防犯対策は、企業や施設の資産を守り、従業員や来訪者の安全を確保するために重要とされています。具体的には、耐震性や耐火性を考慮した建物設計や設備の整備を行い、災害発生時に備えることが求められます。
施設内の避難経路を明確に示し、定期的に防災訓練を実施することで、災害発生時にスムーズな避難を可能にし、被害の拡大を防ぎます。
また防犯対策としては、監視カメラの設置や入退室管理システムの導入が挙げられます。これにより、施設内での不正行為や侵入を防ぎ、資産や情報の保護を強化します。さらに金庫の設置やセキュリティキーを設置し、来客用スペースと業務用エリアを物理的に分けるなど、外部者のアクセス制限を行うことも有効です。
加えて、サイバーセキュリティ対策も必要です。社用デバイスにはウイルス対策ソフトを導入し、定期的なセキュリティ更新を実施し、情報漏えいやサイバー攻撃のリスクを軽減します。
防災・防犯の双方で物理的およびデジタルな側面から対策を取ることで、企業は不測の事態からのリスク低減を図ることができます。
企業の防災訓練については次のコラムで詳しく紹介しています。
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働きやすいオフィス環境づくり
従業員の働きやすさを考慮した環境づくりもファシリティマネジメントの一環です。例えば、会議室や共有スペースの配置を考慮し、従業員が効率的に移動できるように導線を整えることで、業務がスムーズに進みやすくなります。オフィス内の動線を最適化することで、従業員同士の交流が増え、コミュニケーションの活性化につながります。また、適度なプライバシーを保つためにパーティションや集中できるワークスペースブースの導入も効果的です。個々の業務に集中できる環境を提供することで、従業員が集中して業務に取り組むことができます。さらに空調や照明なども快適な環境づくりに欠かせない要素であり温度や湿度の調整を適切に行うことで健康面の向上も期待できます。
リモートワークなどを導入する企業では、広いスペースが不要になることもあります。状況に応じてオフィスのリニューアルやレイアウトを見直すことも必要です。
省エネ化の促進
設備機器や備品の見直しはエネルギー消費効率の最適化にも繋がり、ランニングコストの削減とCSRの推進になります。例えば、断熱・除湿効果のある建材を使用、空調や照明機器の取り換え、EV車・ハイブリッド車への変更などが挙げられます。環境に優しい設備を導入すれば、省エネ効果が得られるだけでなく、地域環境への配慮にもつながります。
また、施設運営や生産プロセスの見直しによってゴミの削減を実現すれば、その分地域社会への負担も軽減されます。
建物の運用におけるマネジメント業務
建物の運用に紐づいて必要となるマネジメント業務は多岐に渡ります。商業施設やオフィスビル等の各種ビル、マンションなど、建物の種類や保有する団体・組織にもよりますが、建物の運用では大きく分けて不動産系、営業系、総務・経理系の3種類の業務が必要となります。
不動産系
不動産系の業務は、主に建物そのものに関する維持管理や保全といった内容です。清掃や設備等のメンテナンス、消防点検、空気環境測定、水質検査といった日常的・定期的な業務のほか、建物の寿命を延ばす修繕計画や省エネ化、より快適な環境にするための方策など、建物の管理全般についての領域を含みます。
営業系
営業系の業務は、テナントの管理や販売促進、対外折衝といった内容です。一般的にテナントや入居者の対応、募集や誘致の計画・施策、各種契約の管理、官公庁への届出などが営業系の領域に含まれます。建物自体の管理を行う不動産系と並んで、建物を活用していくために欠かせない業務です。
総務・経理系
総務・経理系の業務は、売上げや入出金の管理、決算書・報告書の作成などのほか、上記2つをスムーズに進めるためのさまざまな調整を行います。不動産系や営業系の業務のように直接的に建物の管理や運営には関わらないものの、重要な資産である建物等を長期的かつ効率的に運用していくための土台となります。
こういった建物の運用におけるマネジメント業務は、建物の規模や組織における立ち位置などによって、より複雑で広範囲的なものとなる場合があります。ライフサイクルマネジメントやファシリティマネジメントの考え方に基づいて費用対効果を最大化したり、建物を長持ちさせ、過ごしやすい環境を整備したりするためには、どの業務もおろそかにすることはできません。
建物の運用で起こりうる問題点
ファシリティマネジメントにはさまざまな要素が含まれますが、建物等を重要な資源と考える以上、不動産系の業務は関連が深いものとなります。適切な管理ができていなければ無駄が生じたり、予期せぬ問題が発生して利用者の満足度が低下してしまったりする可能性があることを忘れてはいけません。ここでは、建物の運用で起こりうる問題点についてご紹介します。
長期的な視点での管理不足
建物の運用においてよく見られる問題の一つが、長期的な視点での管理不足です。
例えば、現状維持を優先し、設備の不具合が発生した際に場当たり的な対応だけを行っていると、予防や事前対策につながりません。他の箇所でも同じ不具合が発生する可能性が高いにもかかわらず、適切な処置を怠ると、結果的に手間やコストが必要以上にかかり、問題が深刻化する恐れがあります。また、長期的な視点を欠いているために、建物の劣化を見逃すこともあり、予防的な修繕が行われないことで、将来的な修繕費用が増大するリスクも考えられます。
現場主導による把握漏れ
現場主導による管理では、担当者や業者が個別に自分の担当箇所のみを管理することが一般的です。しかし、これでは建物全体の状態を把握できていないため、必要な修繕計画の立案や効率化が困難になる恐れがあります。各担当がしっかりと対応していれば大きな問題が起こりにくいものの、全体の視点を欠いていると、建物の一部だけに焦点を当てた対応に終始し、長期的な視野での管理が難しくなるでしょう。そのため、建物全体を見渡し、経営的な視点を踏まえて管理を進めることが重要です。
刻々と変化する社会や環境に対応し、価値ある建物づくりをするためには、全体を統括した視点での管理が不可欠となります。
建物管理をトータルサポートするALSOKのファシリティマネジメント
ALSOKの「ファシリティマネジメント」では、建物運用に関連する業務を一括して代行します。日常の清掃や設備管理に加え、ALSOKの強みである国内最大級のネットワークを活用した高品質な警備業務までトータルでご依頼いただけます。
さらに、ファシリティマネジメントの考えに基づき、長期的視野で適切な建物運用のご提案も行い、現状維持だけでなく将来的な運用改善もワンストップで対応いたします。
ここではALSOKのファシリティマネジメントにおける業務について簡単にご紹介します。
管理サービス業務
電話応対、受付、設備遠隔制御システム、遠隔画像システムなどが該当します。安全安心で気持ち良く建物を利用できるようにサポートを行います。
清掃管理業務
日常清掃、定期清掃、特別清掃などが該当します。館内はもちろん外観や植栽等の状態は建物の印象を左右するポイントですので、いつでも清潔感のある建物づくりを行います。
環境衛生管理業務
空気環境測定、給水管理、排水管理、害虫等防除、水質検査などが該当します。利用者が快適に過ごせるように建物の環境を保全します。
設備管理業務
電気通信設備、空気調和設備、給排水衛生設備、昇降機設備などが該当します。建物を機能させるさまざまな設備の点検や整備を行います。
建築物保全管理業務
建築物設備保全管理、特定建築物定期調査・検査などが該当します。地盤や屋根・屋上、壁、床といった建物の各箇所に問題がないか調査を行い、建物の安全性を管理します。
防災業務
消防点検、防火対象物点検、防災管理点検などが該当します。定められた防災設備の点検等を行い、万が一の事態にもしっかり対応できる環境づくりを行います。
警備業務
常駐警備、機械警備、入退出管理などが該当します。ALSOKならではの警備、最新のセキュリティ機器等を駆使して建物の安全を守ります。
建物を適切に運用するためには、多様な管理業務が必要です。ファシリティマネジメントやライフサイクルコストの観点を取り入れ、外部委託サービスの活用や長期的な運用方針の策定を行うことで、コストの最適化と資産価値の維持が可能となります。一度、運用体制を見直してみることをおすすめします。
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まとめ
今回は、ファシリティマネジメント(FM)について、概要からメリット、重要性、具体的な取り組みについてご紹介しました。建物の現状維持にとどまらず、現代の価値観に合わせたファシリティマネジメントを行うことで、施設の資産価値を保ち、長く親しまれる建物管理を目指していきましょう。