消防法施行令の一部改正で見直されたこととは?【令和4年・5年版】
消防法は、火災の発生自体を防止し、また火災発生時の被害を最小限に抑えるために重要な法律です。その消防法に関する政令(消防法施行令)が、令和4年4月1日と令和5年4月1日に改正されました。
この記事では、消防法とはどのようなものか、また消防法施行令の一部改正で具体的に何が見直されたのかについて解説します。
目次
消防法とは?
消防法とは、人々の命や財産を守るために火災を未然に防ぎ、万が一火災・地震等の災害が起きた際にも被害をできるだけ抑え、災害等による傷病者の搬送を適切に行えるようにする法律だといえます。消防法について定めている条文では、最初に次のように書かれています。
この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。
消防法施行令
消防法施行令は、消防法を実施するための必要事項を定めた政令です。火災を予防するためにどのようにすればよいか、火災・地震が発生した場合に、人々が安全に避難するために何が必要なのか等、消防法にもとづいたルールといえます。
例えば、火災の原因となり得る危険物、消火器等の設置場所、消防用設備(消火設備・警報設備・避難設備・消防用水等)に関する技術基準、救急車や救助隊の業務等について示されています。
令和4年4月1日の消防法施行令の一部改正で見直されたこと
令和4年4月1日に消防法施行令の一部改正が施行されました。改正内容は以下の2点に分かれます。
- 畜舎における消防用設備の設置・維持基準の特例追加
- 消防設備士・危険物取扱者免状の写真サイズの規定変更
まず、消防用設備に関しては、「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律(令和3年法律第34号)」が制定されました。これら法律の改正を踏まえ、畜舎のほか、該当する畜舎の関連施設(※)や堆肥舎について、要件を満たす場合は、消防用設備等の設置について適用する基準の特例を認めています。この改正により、従来は管轄消防本部が判断していた消防用設備等の設置免除特例が、政令で明文化されました。
※関連施設:搾乳施設および畜舎に附随する集乳施設
さらに、消防設備士・危険物取扱者免状の写真サイズについても、規定内容が変更されています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
畜舎における消防用設備の設置・維持基準の特例追加
以下2つの要件を満たす畜舎・関連施設・堆肥舎においては、消防用設備等の設置義務に特例が認められます。
- 防火上および避難上支障がないこと
- 周囲の状況に関し延焼防止上支障がないこと
具体的には、以下の消防用設備に関して、特例が追加されました。
消火器具
消防用設備全体を通しての大きな変更点は、特例が認められる畜舎において一定の要件を満たすものは、消火器以外の消火設備は原則設置が不要とされたことです。
また、消火器に関する設置基準は、以下のように変更されました。
改正前 | 改正後 |
---|---|
各部分から20メートルごとに配置する | もっぱら家畜の飼養または排泄物の処理もしくは保管の用に供する部分を除く各部分から、20メートルごとに配置する |
なお、平成23年の規格省令改正により、令和4年1月1日以降は失効した旧規格の消火器は設置できません。旧規格・新規格いずれに該当するかは、以下のマークを確認して見分けてください。
【旧規格と新規格の違い】
屋内消火栓設備・屋外消火栓設備
屋内消火栓設備および屋外消火栓設備は、原則として設置の必要がなくなりました。
改正前 | 改正後 |
---|---|
防火対象物の面積、階、構造等により設置する | 原則設置は不要 |
自動火災報知設備・非常警報設備
自動火災報知設備・非常警報設備も、原則として設置は不要です。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
自動火災報知設備 | ・延べ面積1,000㎡以上のもの ・地階、無窓階または3階以上の階で、床面積が300㎡以上のもの |
原則設置は不要 |
非常警報設備 | ・収容人員が50人以上のもの ・地階および無窓階で、収容人員が20人以上のもの |
ただし、事業経営のための簡易的な事務等を行う部屋があり、当該部分の規模が一定以上(※)となる場合は、火災発生時の危険や避難上の支障、人命の危険を考慮して、自動火災報知設備や非常警報設備を設置しなければなりません。
※一般的な事務所用途の建物において、自動火災報知設備や非常警報設備の設置が必要となる規模
なお、自動火災報知設備・非常警報設備の設置が必要な場合でも、事実上家畜の飼養に供する部分には、地区音響装置の設置は不要です。
誘導灯・誘導標識
誘導灯・誘導標識の設置基準は、以下のように変更されました。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
誘導灯 | 無窓階および11階以上の部分 | 無窓階は、設置が必要。 ただし、各部分から二方向に避難可能で、かつ、避難口を見とおし、識別できる構造を有する等、避難が容易である場合は設置不要。 |
誘導標識 | すべての防火対象物(誘導灯の有効範囲内の部分について誘導標識を設置しないことができる) |
消防用水
畜舎の敷地が大規模な場合は、消防用水の設置が必要です。ただし、耐火建築物・準耐火建築物以外の建物かつ一定の要件を満たす場合は、以下の通り基準が緩和されました。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
耐火 建築物 |
1階および2階の床面積の合計が 15,000㎡以上のもの |
1階および2階の床面積の合計が 15,000㎡以上のもの |
準耐火 建築物 |
1階および2階の床面積の合計が 10,000㎡以上のもの |
1階および2階の床面積の合計が 10,000㎡以上のもの |
上記以外 | 1階および2階の床面積の合計が 5,000㎡以上のもの |
1階および2階の床面積の合計が 5,000㎡以上のもの ただし、木造以外の平屋建てで、高さが16m以下の場合は、床面積が10,000㎡以上のもの |
また、2つ以上の畜舎がつながっていて、延焼防止上支障のない場合(※)は、別の建物とみなされます。
※以下の要件を満たす場合、延焼防止上支障がないとされる
- 各畜舎が可燃材料を用いない等、延焼防止上支障ない構造である
- 相互間の距離が6メートルを超えている
- 接続部分が延焼上支障のないよう措置(不燃材で造り、可燃物を存置しない等)をとっている
消防設備士・危険物取扱者免状の写真サイズの規定変更
畜舎に関するルール以外に、消防設備士・危険物取扱者免状の写真サイズの規定も変更されました。具体的には、新たにパスポート規格の写真が追加で定められました。
対象者・規定 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
・消防設備士 消防法施行規則第33条の6第3項(第33条の7、第33条の13で準用する場合も含む。) |
上三分身像の縦4.5cm、横3.5cm | 上三分身像の縦4.5cm、横3.5cm又はパスポート規格「旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)」別表第一に定める要件を満たしたもの |
・危険物取扱者 危険物の規制に関する規則第52条第2項第1号(第53条、第58条で準用する場合も含む。) |
上三分身像の縦4.5cm、横3.5cm | 上三分身像の縦4.5cm、横3.5cm又はパスポート規格「旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)」別表第一に定める要件を満たしたもの |
出典:消防庁「消防法施行令の一部を改正する政令等について」(令和4年3月)
令和5年4月1日の消防法施行令の一部改正で見直されたこと
近年、二酸化炭素消火設備に関連する死亡事故が多発していることから、総務省消防庁は令和5年4月1日に、消防法施行令の一部をさらに改正しました。
改正内容は、大きく分けて次の2点です。
- 「既存防火対象物に設置されている一定の不活性ガス消火設備を最新の技術上の基準が適用される遡及対象設備に追加」
二酸化炭素消火設備に関連する事故の再発防止のため、消防法(昭和23年法律第186号)第17条の2の5に基づく、「不遡及の原則が適用されない消防用設備等」に、一定の不活性ガス消火設備を加えることとする。 - 「消防設備士等による点検の実施」
現行法では、延べ面積が1,000㎡未満の駐車場等の場合、消防設備士等の有資格者以外が二酸化炭素消火設備の点検を実施できるが、事故のリスクを考え有資格者の点検対象とする。
次に具体的な内容について見ていきましょう。
二酸化炭素消火設備に係る事故の再発防止を図るための規定の整備
二酸化炭素消火設備に関連する事故を防ぐために、以下3つの規定が準備として定められています。
1.既存設備であっても最新の技術上の基準が適用される不活性ガス消火設備の特定等
二酸化炭素を不活性ガス消火剤とし、不活性ガス消火設備の設置・維持に関して、以下の技術的な基準を定める規定。
- ① 閉止弁の設置(措置に係る経過措置期間 令和6年3月31日まで)
- ② 二酸化炭素の危険性等に係る標識の設置
- ③ 防護区画内立入り時の閉止弁の閉止等
- ④ 点検時にとるべき措置を定めた図書の備付け
- ⑤ 消火剤放出時の立入り制限に係る規定
2.消防設備士等による点検が特に必要である防火対象物
消防設備士等による点検が特に必要である防火対象物は、全域放出方式の二酸化炭素消火設備が設けられているものと定める規定。
3.二酸化炭素消火設備に関する基準の追加
不活性ガス消火設備の技術上の詳細な基準として、全域放出方式の二酸化炭素消火設備に関し、以下の項目を定める規定。
- 起動用ガス容器を設けること
- 起動装置には、消火剤の放出を停止する旨の信号を制御盤へ発信するための緊急停止装置を設けること
- 自動式の起動装置の場合には、二以上の火災信号により起動するものとすること
- 常時人のいない防火対象物であっても、自動式の起動装置を設けた場合の音響警報装置は音声によること 等
その他の改正点
その他の改正点としては、以下が挙げられます。
消防用設備等(特殊消防用設備等)設置届出書及び工事整備対象設備等着工届出書に添付する書類について
利便性向上・行政事務の効率化の観点から、消防用設備等(特殊消防用設備等)設置届出書および工事整備対象設備等着工届出書に添付する書類の合理化を図り、添付書類を削減するもの。
消防用設備等の点検の基準及び消防用設備等点検結果報告書に添付する点検票の様式の一部を改正
不活性ガス消火設備の点検の基準について、改正するもの。
消防法施行規則第三十三条の十七第三項の規定に基づく工事整備対象設備等の工事又は整備に関する講習の実施に関し必要な細目の一部を改正
消防設備士講習の講習科目に、工事整備対象設備等の工事または整備における保安に関する要点を追加するもの。
不活性ガス消火設備の閉止弁の基準
不活性ガス消火設備に設けられる、閉止弁に関する基準を新設するもの。
出典:消防庁「消防法施行令の一部を改正する法令等について」(令和4年9月)
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令和4年4月1日の消防法施行令の一部改正で、「消防用設備に関すること」「消防設備士・危険物取扱者免状に関すること」の2点が見直されました。さらに令和5年4月には新たに「二酸化炭素消火設備に関すること」「消防設備士等による点検」の2点が改正されました。改正点を理解し、それに対応する建物の管理が求められます。
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まとめ
消防法は火災を未然に防ぎ、万が一火災・地震等の災害が起きた際にも被害を最小限に抑え、適切に対応できるようにする法律です。消防法に定められた内容に違反した状態だと、万が一の事態に対応できず大惨事になるリスクも考えられます。
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