進む障がい者雇用と企業が取り組むべきバリアフリー対策とは
近年、企業経営の観点において「ダイバーシティ&インクルージョン」という個々の違いを受け入れ、多様性を尊重する概念が注目をされています。障がい者雇用もその一環として、企業の果たすべき役割として求められるようになりました。この記事では事業主が障がいのある方を雇用する上で、企業に必要となるバリアフリー化などの取り組みについてご紹介します。
目次
企業でバリアフリー対策が求められる背景
企業におけるバリアフリー化やユニバーサルデザイン(障がいの有無や属性に関わらず多くの人々が快適に暮らすための環境デザイン)の導入が求められているのは、どのような事情があってのことなのでしょうか。ここでは、企業におけるバリアフリー化推進が図られる社会的背景についてご紹介します。
民間企業や公的機関における障がい者雇用の増加
以下は、厚生労働省の民間企業における障がい者雇用状況をもとにした雇用障がい者数と実雇用率を平成13年(2001年)から令和4年(2022年)で見たグラフです。
平成18年(2006年)から「障がい者雇用促進法」により、企業や公的機関にさらなる障がい者の積極雇用が求められることとなりました。この法律は障がい者の職業の安定を図ることを目的とし、障がいを持っている方も意欲的に社会参画を図れる社会をめざすものです。この法律に基づき障がいを持つ方を積極雇用する企業が増え、それに伴ったバリアフリー化も求められているといえるでしょう。
バリアフリーやユニバーサルデザインに関する意識の高まり
国が2006年に「バリアフリー新法」を制定し、バリアフリー化を国策としました。その後もバリアフリー新法は定期的に改正され、国内の建築物や公共の場のバリアフリー化に活かされています。
【社会におけるバリアフリー化への取り組み例】
福岡県北九州市のバリアフリー化事例をご紹介します。北九州市は全国の政令市において最も高齢化率が高く、障がい者に加え今後さらに増える高齢者にも配慮した施設整備の推進を、市を挙げて行っています。
都心にあたる小倉地区・副都心にあたる黒崎地区におけるバリアフリー化を全地区のモデルケースとし、主要駅周辺や行政施設、大規模病院などから住宅街一円に至るまで、道路を中心としたバリアフリー化を進めています。具体的には歩道の設置や既存歩道の拡幅工事、道路上にある段差の解消や視覚障がい者用ブロックを切れ目なく設置するなどの措置が実施されました。
【ユニバーサルデザインに対する企業の取り組み】
企業活動や製品を通じて大きな社会的影響力を持つ企業による「ユニバーサルデザイン化」も進められています。たとえば大手建機メーカーでは、工場内のフォークリフトの通路を色分けして歩行者専用通路を設け、聴覚障がいがある従業員の安全確認を容易にしました。また工場で死角となりやすい箇所にはカーブミラーを配置し、フォークリフトや機械の動作音による危険の認識にとどまらず、視覚的な認識も可能としています。これらを設けたことで、障がいを持たない従業員の安全性や利便性の確保にも寄与できる結果となり、全社的な好評を博しています。
企業の多様性向上につながる障がい者雇用
近年、企業経営の観点において「ダイバーシティ&インクルージョン」といった概念が注目されており、社会貢献は企業の果たすべき役割として求められるようになりました。
企業が率先して障がい者雇用を行うことは、企業活動にもさまざまな良い影響をもたらします。ここでは、障がい者雇用が企業にもたらす影響についてご紹介します。
企業価値の向上
障がい者雇用を積極的に図ることにより、障がい者支援につながるだけでなく、社会貢献活動に積極的な企業であるという認識が広まり、企業の社会的責任(CSR)を果たすことにもつながります。また障がい者雇用を通じた施設整備などの企業努力が評価されることもあり、業界内でのモデルケース構築にも寄与することが可能です。
従業員の働き方や価値観の多様化を図ることができる
障がいの有無にかかわらず同じ社内で働くことは、互いの意見や立場の理解や尊重が図られ、価値観の多様化の実現へとつながります。結果、新しい発想や視点を得る可能性も広がり、企業のサービス向上、売り上げなどにも相乗効果をもたらすことが考えられます。
専門的人材の確保にもつながる
障がい者雇用を行うことで、専門的な人材の確保につながることもあります。
例えば、新しい環境になじむことに時間がかかる方でも、作業に慣れてくると1つの業務に注力できることがあります。やがて特定分野に関しての知識を豊富に蓄え、1つの分野において必要不可欠な存在となることもあるでしょう。そこに至るまでの過程を企業内でサポートすることにより重要な戦力へと成長します。
障がいを持つ方々の、個々の特性や能力を十分に理解し、共に歩むことでより強固な組織作りへの一歩となるでしょう。
企業に求められる福祉(バリアフリー)対策1 ハード面
これからの企業には、障がい者の雇用義務を果たしながら障がい者がより働きやすい環境を整えることが求められています。ここでは企業に必要な福祉に関する対策について、おもにハード(施設や設備)の面からご紹介します。
設備の改良
さまざまな障がいを持つ方が業務にあたり支障をきたさないよう、以下のような設備面での改良が求められます。
- 車いすの方に配慮したスロープの設置
- 歩行に支障がある方に向けた手すりの設置
- 車いす用トイレの設置
- 視覚障がいを持つ方に向けた点字による表示
- エレベーターの設置
- 移動用リフトの設置
上記のような対策が未実施であれば、今後に向けて実施に取り組むことが必要になります。
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備品の用意
障がいを持つ方がスムーズに業務にあたることができるよう、適切な備品を用意しておくことも必要です。以下のような備品を設け、障がい者雇用のさらなる拡大に備えましょう。
- 車いす
- 松葉杖や歩行器などの歩行補助具
- 後から取り付けられるタイプのスロープ
- 自由に設置し移動できるタイプの手すり
上記のような備品を至急用意することが必要となった場合には、ひとまずレンタルで調達するという選択肢もあります。
企業に求められる福祉(バリアフリー)対策2 ソフト面
障がい者雇用の拡充を図るには設備や備品の整備にとどまらず、さらなる社内環境の見直しも必要です。ここでは企業のバリアフリー化におけるソフト面での対策についても、ご紹介します。
障がい者の就労環境整備
障がいのある方も、持つ能力を最大限に発揮して就労することが可能な環境を整える必要があります。たとえば通勤ラッシュなどの混雑を回避する取り組みや、定期的な通院が必要な場合に時差出勤を設ける取り組みが有効です。また、障がい者雇用への積極協力が可能な従業員を配置・育成する取り組みも良い方法です。具体的には、手話ができる従業員の配属などが有効対策として挙げられます。
社内意識におけるバリアフリー化(ノーマライゼーション)
施設のバリアフリー化も大切ですが、社内の意識を改革することにも取り組む必要があります。具体的には経営陣などの企業トップが障がい者雇用を積極推進することや、障がい者が持つ特徴や特性について理解を促すために、それらを学ぶ研修の実施などが挙げられます。
また、障がい者に対する偏見や差別をなくすための従業員への啓蒙活動や意識付けを徹底することも重要です。障がい者の方が業務において不都合を感じないよう、情報共有や引き継ぎをより緻密で的確に実施し、フォロー体制を整えるなど一般従業員による取り組みも実施しましょう。
障がい者の職務設計
障がいと一言で言っても、その状態や程度は人それぞれです。一括りにせず、各々に応じた職場環境を整えていくことが必要となります。具体的には、どのような仕事を任せるかを検討するため、どの部署にどんな仕事があるのか整理するといった取り組みが挙げられます。
依頼すべき仕事が決まったら、障がいを持つ従業員個々の特性に合わせたマニュアルや手順書を作成し、安心して業務にあたれる状況を整えておきましょう。
ALSOKのサービス
企業のバリアフリー化には施設や設備面での整備と、企業としての意識付けや体制構築といった2通りからの取り組みが必要となります。
ALSOKと聞くと防犯対策を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、施設の改修や管理についても事業展開しています。障がい者雇用をさらに推進し、企業活動の活性化を図りたいと考えたら、事前に何が必要かを考え設備や備品の導入を検討しましょう。施設管理の見直しを図ることも、労働環境の積極的なバリアフリー化につながります。
まとめ
バリアフリーという言葉の本来の意味は「障壁をなくすこと」です。しかし現在では障がい者や高齢者にとっての障壁を取り除いて暮らしやすさを提供することという意味合いで用いられるケースが中心です。
企業内のバリアフリー化と聞くと段差の解消や手すりの設置など、ハード面での改善を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし経営者および従業員の意識改革や業務環境の整備など、ソフト面における対策も障がい者の安定雇用を図るためには欠かせないものです。これからさらなる推進が予測されるバリアフリー社会の一員として、両面からの対策を今から積極的に講じていきましょう。