高年齢者雇用安定法改正のポイントは?改正の背景や留意点

高年齢者雇用安定法改正のポイントは?改正の背景や留意点
2023.10.18

高齢者が活躍できる環境の整備を目的とした「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されています。
この改正により、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置をとることが努力義務として新たに設けられました。

今回は、高年齢者雇用安定法改正のポイント、改正の背景や企業が気を付けたい留意点を解説します。

目次

高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が進行して人口が減少する中で、経済社会の活動を維持するため、働く意欲のある高齢者がその能力を十分に発揮し、高齢者が活躍できる環境の整備を図る法律です。
今回の改正は、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、さまざまな選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化する努力義務を設けるもので、70歳までの定年年齢の引上げを義務付けるものではありません。

高年齢者雇用安定法改正の背景

高年齢者雇用安定法が存在する背景には、少子高齢化が関係しています。少子化に伴う労働人口の減少から、高年齢者の雇用維持による労働人口の確保を行うためです。

下図のとおり、2010年以降15~64歳の人口が減少傾向にあり、今後も減少傾向がより強くなり、高齢化率も上昇すると考えられます。労働人口のうち若年層が減少するため、高年齢層の労働力により、経済社会の維持を要する状況となっています。

高齢化の推移と将来推計
出典:内閣府 高齢化の推移と将来推計(人口と高齢化率を抜粋)

高年齢者雇用安定法改正のポイント

高年齢者雇用安定法改正のポイント

今回の高年齢者雇用安定法改正のポイントは、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新たに設けられたことです。

  1. 70歳までの定年引上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
    (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(※)
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(※)
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

※4.5に関しては創業支援等措置(雇用によらない措置)となっており、過半数労働組合等の同意を得ての導入となります。

出典:創業支援等措置の実施に関する計画の記載例

今回の高年齢者就業確保措置の努力義務の対象となる事業主は、以下のとおりです。

  • 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
  • 継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主

上記に当てはまる事業主は、1から5のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります。

高年齢者就業確保措置を講ずるに当たっての留意事項は以下のとおりです。

  • 高年齢者就業確保措置(上記1~5)のうち、いずれの措置を講ずるかは、労使間で十分に協議を行い、高年齢者のニーズに応じた措置を講ずることが望ましい
  • いずれか一つの措置の他、複数の措置により70歳までの就業機会を確保することも可能だが、個々の高年齢者にいずれの措置を適用するかについて、高年齢者それぞれの希望を聴取し、これを十分に尊重して決定する必要がある
  • 高年齢者就業確保措置は努力義務であり、対象者を限定する基準を設けることも可能だが、その場合には過半数労働組合等との同意を得ることが望ましい。また、事業者が恣意的に一部の高年齢者を排除するような、法の趣旨や他の労働関係法令、公序良俗に反するものは認められない
  • 高年齢者が従前と異なる業務等に従事する場合、必要に応じて新たな業務に関する研修や教育、訓練等を実施することが望ましい

出典:厚生労働省 高年齢者雇用安定法改正の概要 70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずるべき措置(努力義務)

高年齢者雇用安定法改正を受けて企業が考えるべきこと

高年齢者雇用安定法改正を受けて企業が考えるべきこと

どの就業確保措置を実施するか決める

対象となる高年齢労働者から希望を聴取し、5つの就業確保措置のうち、どの措置を講ずるかを労使間で協議を行います。また、複数の措置により70歳までの就業機会を確保することも可能となっています。この場合も労使間で十分に協議を行い、高年齢者のニーズに応じた措置を講ずることが望ましいとされています。

措置の対象者を設定する

2012年の改正における「65歳までの雇用確保措置」では希望する高齢者全員が対象でしたが、今回の改正により、対象者の選択が可能になりました。原則として対象者基準の内容は労使に委ねられますが、事業主と過半数労働組合等との間で十分に協議した上で、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいとされています。
対象者基準の内容を誤ると、その他労働関係法令に抵触する恐れがあるため注意が必要です。

離職する高齢者への再就職援助措置

これまで再就職援助措置の対象となる高年齢者は、解雇もしくはその他の事業主の都合で離職する45歳~65歳と継続雇用制度の対象者基準に該当せず離職する60歳~65歳が対象でしたが、今回の改正により、対象となる高年齢者の範囲が拡大されました。それにより、65歳以上70歳未満で離職する高年齢者が対象として追加されています。

異なる業務に就く場合、研修・教育・訓練等を行う

高年齢者を定年前とは異なる業務に再雇用する場合、新しく従事する業務に関する研修や教育、訓練等を行うことが望ましいです。特に、雇用による措置(1.定年引き上げ、2.定年制の廃止、3.継続雇用制度の導入)を講ずる場合は、安全または衛生のための教育を必ず行わなければいけません。

高年齢者の就業確保措置を講ずるための助成金3種類

この助成金は、生涯現役社会を実現するため、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成し、高年齢者の雇用推進を図ることを目的とし、次の3コースで構成されています。

  • 65歳超継続雇用促進コース
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  • 高年齢者無期雇用転換コース

65歳超継続雇用促進コース

令和4年4月1日以降に、以下のいずれかを実施した事業主に対して助成を行うコースです。

  • 65歳以上への定年引上げ
  • 定年の定めの廃止
  • 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
  • 他社による継続雇用制度の導入

65歳以上への定年の引き上げや66歳以上の継続雇用制度については、現在の自社の制度の設定年齢を上回る必要があります。

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた事業主に対して助成を行うコースです。必要な取り組みは次の2つです。

  • 無期雇用転換計画の作成
  • 無期雇用転換措置の実施

無期雇用転換計画を作成し認定を受けた後、無期雇用転換計画の実施期間内に有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する必要があります。対象労働者一人につき、中小企業は48万円、中小企業以外は38万円を支給します。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して、措置にかかった費用の一部を助成するコースです。
雇用管理制度の整備等に係る措置は次の取り組みが当てはまります。

  • 雇用管理整備計画の作成
  • 高齢者雇用管理整備に向けた取り組みの実施

高齢者の雇用管理の整備には、能力開発や評価、賃金体系といった制度の導入または見直し、健康診断制度の導入等が挙げられます。

まとめ

今回は、高年齢者雇用安定法改正のポイント、改正の背景や留意点等について解説しました。少子高齢化の進展に伴い、働く意欲のある高年齢者だけではなく、高年齢者を雇用する企業が助成金等を利用して、高年齢者を含め年齢にかかわりなく能力を十分発揮できるよう、環境整備の推進が求められています。
環境整備の一環として、高年齢者を含めた全ての従業員が安心して働けるよう、自社の福利厚生を充実させてみてはいかがでしょうか。ALSOKでは、従業員の自宅や社宅の防犯対策、従業員の防災対策等さまざまなサービスを取り扱っております。ご質問等ありましたらお気軽にALSOKにお問い合わせください。