顔認証システムの仕組みとは?導入のメリットや選定のポイントを解説
近年、顔認識機能を活用した「顔認証システム」が、施設の出入りにおけるセキュリティ管理などで役立てられることが増えています。顔認証システムは非接触での本人確認が可能で利便性とセキュリティ強化の両立が期待されており、今後さらに幅広い分野での活用が見込まれています。
この記事では、現在急速に普及している顔認証システムの仕組みや導入のメリット、主な使用シーン、システム選定のポイントなどを解説します。
目次
顔認証システムとは
顔認証システムとは、人の顔を認証して本人確認を行う技術で、さまざまな場面で導入されている生体認証の1つです。顔認証をはじめとする生体認証技術は、企業サービスから強固なセキュリティが求められる銀行、ひいては国家インフラなどにまで幅広く活用されるようになりました。
「顔認証」と「顔認識」の違い
顔認証と混同しやすい画像処理技術に、「顔認識」があります。顔認識とは、画像から人の顔がどこに写っているかを検出し、検出された顔画像から性別・年代・表情(笑顔、泣き顔など)などを判別したり、特定の個人を認証したりといった次の処理を行うための前工程として区分されることが一般的です。
一方で「顔認証」は、検出した顔の特徴情報をもとに、あらかじめ登録されたデータと照合し、特定の個人の特徴であることを認証する生体認証技術の1つです。顔認識が顔の検出を行うことが主な目的であるのに対し、顔認証はセキュリティ対策として本人認証を目的としている点が大きな違いといえます。
顔認証以外の生体認証技術としては、指紋認証、声紋認証、手の静脈認証や眼球の虹彩認証などがあります。顔認証は、他の認証技術と異なり、デバイスへの接触が不要で、持ち物などで手がふさがっていても認証処理できる点や、立ち止まらなくても認証処理ができる点が挙げられます。また、顔認証は画像処理技術の向上により複数人の認証処理を一度に行うことも可能になってきています。
生体認証について詳しくは以下の記事で解説しているので、こちらも参考にしてください。
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顔認証システムの技術・仕組み
利用者にとって、容易に本人確認を行える顔認証システムですが、顔認証システムはどのような仕組みで認証を行っているのでしょうか。顔認証技術は、画像から顔を検出、目や鼻、口といった特徴を抽出し、あらかじめ登録された顔情報をもとにした人物情報と照合することで認証が行われます。
顔認証の技術には、顔の角度が異なっていたり、顔の一部が隠れていたり、また低画質であっても認証ができるよう様々なアルゴリズムが組み合わされ実現しています。近年では、AIの進展によってディープラーニング(深層学習)を活用したアルゴリズムが実装され、高度な特徴抽出が可能となり、より精度の高い認証が容易に実現できるようになってきました。
この技術の進展によって、昨今では顔の一部が隠れた状態(マスク着用時)であっても、認識精度を確保した上で顔認証が行えるようになり、検温機能とマスク着用を検出したシステムが、市場に流通することに貢献したと考えられます。
顔認証を含む生体認証のシステムを理解するには、認証システムと認証方式それぞれの種類について知っておきましょう。
認証システムの構成
認証システムの構成は、主に次の2種類に分別されます。
顔認証端末(デバイス)型
カメラと認証システム部分が一体化した専用端末型と、カメラと認証システム部分が分離して構成されている形態が一般的であり、いずれもスタンドアロンで認証を完結するタイプです。
認証速度が速くランニングコストが安価なことが特徴に挙げられます。しかし、デバイスのシステム更新を行わない限り、認証精度が変わらないなどのデメリットも存在します。
クラウドサービス型
インターネット等を経由したクラウドサーバー上で顔認証を行うサービスです。認証部分はクラウドサーバー側にあり、専用カメラを必要とせずスマートフォンやタブレット端末を活用した顔認証ソリューションも提供されています。そのため、導入コストが低く済み手軽に導入できるといったメリットがあります。
ただし、認証速度が遅い・ランニングコストが高い・インターネット接続が途切れるとすべての認証システムが使えなくなるなどのデメリットも存在します。
顔認証の認証方式
画像から人物を特定する顔認証ですが、その認証方式には大きくわけ以下の2種類があります。
ビジュアル方式(2D認証)
二次元の画像から認証する方式です。対応端末が多く、選択肢が豊富であるというメリットがあります。
ただし、太陽や照明の光量により認証精度が左右される点や、髪型や化粧によって正常に認証できないおそれがあるなど、複数のデメリットがあるとされています。
IR方式(3D認証)
赤外線センサーにより、顔を立体データとして認識する方式です。顔の奥行情報を用いることで、写真を使用した成りすましを防ぐなどのメリットがあります。
また化粧や髪型が変わっても影響がなく、太陽や照明の影響を受けにくく顔認証システムを動作させられることもメリットでしょう。ただし、デメリットとして、赤外線認証に対応する端末が必要となる点が挙げられます。
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顔認証システムの注目が高まっている背景
顔認証システムが注目されている背景の1つとして、個人情報や顧客情報の漏えいが近年増加していることにより、セキュリティ対策の重要性が高まっていることが考えられます。
個人情報保護委員会の発表によると、令和4年度の「漏えい等事案に関する報告の処理」は4,217件であったのに対し、令和5年度は7,075件に増加しています。1年で約1.7倍に増加している事実からも、企業は従来よりも厳しい情報漏えい対策が求められているといえるでしょう。
出典:令和5年度 年次報告の概要について p2(個人情報保護委員会)
顔認証システム導入のメリット
顔認証システムを導入して本人認証を行うメリットには、主に次の7点が挙げられます。
ICカードなどの盗難や紛失の恐れがない
顔認証システムを導入すれば、ICカードや社員証などの物理的なデータの持ち運びをする必要がなくなります。盗難や紛失の恐れもなく、暗証番号を記憶する必要もないため、社員証の紛失など人為的なミスの発生予防になり、前述のような不正防止にもつながります。
なりすましなどの不正を防止できる
ICカードによる認証や、一般的な鍵による入退室システムの場合、カードや鍵の盗難・紛失などが原因で、第三者に侵入されるおそれもあります。また、従業員同士で社員証やICカードの貸し借りを行い、権限のない人が無断で重要エリアに入室するなどの場面も想定されます。一方、顔認証では個人しか持ちえない「顔の特徴」を認識するため、社内不正や第三者によるなりすましといった犯罪行為を一定程度は未然に防ぐことができます。
またホワイトリスト(通行を許可している人)を事前にデータベースに登録しておけば、本人確認と同時にブラックリスト(通行を許可していない人)を選別することも可能です。
受付業務の効率化
従来は、受付担当者が来訪者の本人確認をしていた現場でも、顔認証システムの導入により受付業務の効率化が可能になります。事前に顔写真などをデータベースに登録しておけば、瞬時に本人確認ができるため、受付業務に関連する人件費の削減にもつながります。
幅広いシーンで活用が可能
複数の人の顔を一度に認識できるため、多人数が集まる場所などさまざまな場面での活用が可能です。
例えば、監視カメラの映像と組み合わせることでテーマパークやショッピングモールなどで、迷子を捜索する際にも役立つでしょう。その他、勤怠管理システムと連携させれば、従業員の入退室の際に顔認証を行うことでより正確な勤怠管理が可能です。従業員側での打刻漏れを省き、ICカードの管理の手間も減少。業務の効率化やコスト削減にもつながります。顔認証システムによっては入室と同時に検温も行えるため、感染症対策にもなるでしょう。オフィスなど大人数が毎日行き交うことが想定される場所では、導入のメリットは大きいといえます。
手軽にシステムを導入しやすい
カメラやスマートフォンなど、身近な機材を活用できる顔認証システムも選べるため、専用の読み取り機材を必要とする他の生体認証システムと比べて、コストの面でも導入しやすいでしょう。
衛生面・利便性に長けている
指紋・静脈認証などと異なり、特定のデバイスに触れなくても認証が可能です。非接触のため衛生的で、感染防止対策が必要な状況にも対応できます。デバイスに顔を映すだけで自動認証されるため、ICカードをかざすなどの人的操作が不要で、従業員の負担も少ないことが特徴です。また顔をカメラに合わせて認証するだけなので、荷物で両手がふさがった人の本人認証も可能です。
感染症予防への顔認証活用
感染症予防の観点からも、顔認証システムは有用です。パスワード認証や指紋認証などの認証機器は、複数人が直接触れるため、感染症の拡大予防の観点からは機器のこまめな消毒が求められます。顔認証システムでは非接触による認証が実現するため、誰かが認証したあとに毎回消毒を行う必要もなく、衛生的に安心して利用できます。
また、顔認証システムでは、利用者の顔を認識するとともに、検温も同時に行うことが可能です。体温に異常がある人が見つかれば、施設への立ち入りを断るなど迅速な対応を取ることもできるでしょう。
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顔認証システムの注意点
顔認証システムの導入にあたっては注意すべき点もあります。導入を検討する際は、主に次の3点を意識することが必要です。
個人情報の管理に注意する
顔認証システムでは、「顔」という個人情報を活用して認証します。個人情報は、取得を行う相手方に対して、事前に利用目的を通知し同意を得ることが義務付けられています。また、異なる利用目的での使用や個人情報やそれに準ずるデータの流用・漏えいが起こった場合は、法律により罰せられます。
そのため、顔認証に使用するデータの取り扱いには細心の注意を払うとともに、データの管理・運用方法を事前に決めておくことが大切です。
システムによって認証精度にバラつきがある
導入する顔認証システムによっては、認証精度にバラつきがあるおそれがあります。季節性の感染症や新型コロナウイルス感染症予防の面からマスクを着用する方も多くいます。顔認証システムを導入したものの、「マスクをしていると認証がうまくいかない」のでは、あまり意味がありません。
マスク着用時でも正確に認識できる、高精度なシステムを導入することが求められています。
システム周辺の環境を整備する
顔認証システムの認証制度は高精度化しているとはいえ、本来の性能を発揮するには周辺環境の整備が必要です。例えば、暗い場所では正しく顔を認識できないこともあります。反対に照明が当たりすぎる場所でも認識精度が低下するおそれがあるため、常に照明を一定に保ち、また認証精度を保つためカメラ画角の設定にも注意を払いましょう。
顔認証システムが使用されているシーン
顔認証システムは、さまざまなシーンで活用されています。ここでは、日常生活における顔認証システムの使用シーンについてご紹介します。
オフィス・事務所・工場などの入退室システム
オフィスや事務所へ入退室する際の本人認証にも、顔認証システムが多く用いられるようになりました。従来は、社員証などによるICカード認証が主流でしたが、先述のとおりカード認証には盗難や紛失の恐れがある点で、セキュリティ面に不安が残ります。大多数の企業は顧客の個人情報やクライアントの機密情報を扱う機会があるため、顔認証システムを活用することでセキュリティ面での安心につながります。
また、工場で働く従業員が両手で荷物を持ちながらセキュリティエリアに入退室する際も、安全かつスムーズに行えるようになります。
顔認証システムによる入退室管理は、セキュリティや安全対策だけではなく、勤怠管理や在室管理などにも応用できることが特徴です。
入退室管理システムについて詳しくは、以下のコラムでご説明しています。
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店舗の万引き対策
店舗の入り口など、お客様が必ず通る場所に機材を設置しデータを取得しておけば、万引きなどのトラブルが起こった際の対応策を講じることもできます。万引き犯を特定することで、再度来店時に注意を払えるようになり、店舗の損失も最小限に抑えられます。
店舗での万引き対策には、防犯カメラ・監視カメラの設置が効果的です。以下のコラムでは飲食店などに防犯カメラを設置するおすすめの場所について説明しているので、ぜひ参考にしてください。
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スポーツジムなどの入館対応
スポーツジムなど、深夜や早朝に営業を行う施設でも、入館時に顔認証システムを設けるケースが増えました。受付担当者が目視で確認を行う代わりに、顔認証システムを設置することで、スタッフの確保が難しい時間帯での営業も可能にしています。また、ICカードによる認証を行っていた施設でも、顔認証に切り替えることで他人のカードを使ったなりすましなどによる不正利用を防止できます。
空港内での通行時
世界各国の空港でも、保安検査場・搭乗口・入出国ゲート・税関の電子申告ゲートの通過時などにおいて、顔認証システムが活用されています。
テーマパークのアトラクション搭乗時など
大型テーマパークの一部でも、顔認証システムが活用されています。従来は、アトラクションへ搭乗する際、紙のチケットを見せる手間があり、搭乗まで時間がかかっていました。
しかし、顔認証による手続き(顔パス)を導入することで、入り口付近で来場者が滞留することが少なくなっているようです。
スマートフォンのロック解除
顔認証機能が搭載されているスマートフォンの場合、ロック解除に顔認証を設定すると、ロック画面を見るだけですぐ画面ロックを解除することができます。
顔認証決済
最近では、顔認証による決済が可能な場面もあります。クレジットカードや、スマートフォンでの決済、電子マネーでの決済などにおいて顔認証を活用することで、暗証番号の入力やサインの確認、バーコード読み取りなどの手間が省けるため、利用者側・店舗側双方の負担が軽減されることも特徴です。また、非接触で決済できるので衛生的でもあります。
マーケティングリサーチ
マーケティングリサーチを目的として、店頭に顔認証システムを設けている店舗も数多くあります。決済の有無に関わらず、顔認証はすべての来店者について行うことができ、購入に至らなかったユーザーに関するリサーチの実施も可能となるためです。
顔認証システムを選定するときのポイント
顔認証システムを実際に導入する際に知っておきたい、選定ポイントは以下のとおりです。
認証精度・スピードが自社のニーズと合っているか
顔認証システムは、認証方式(ビジュアル方式 or IR方式)によって認証できる精度や適切な環境が異なります。例えば、工場などマスクを着用しての利用が想定される箇所においては、立体認証が可能でより高精度なIR方式(3D認証)が適しています。また、商業施設などの規模が大きく利用人数が多い場所での導入は、認証精度や認証スピードも高水準のものが必要です。
他システムと連携できるか
前述のとおり顔認証システムは、セキュリティ対策以外にも、入退室管理や勤怠管理などさまざまな面で有用です。その性能を最大限に発揮するには、既存で使用している入退室管理システム・勤怠管理システムや、今後導入予定のシステムと連携できるかどうかを確認しておくと良いでしょう。具体的に確認したい部分としては、APIが使用可能か、他のシステムとデータ形式の互換性はあるのかなどが挙げられます。
利用する環境や設置場所に適しているか
設置を想定している場所が屋内・屋外で、適している顔認証システムは異なります。屋外に設置する場合は汚れや水滴、ホコリなどに強いかどうかも加味して選ぶ必要があるでしょう。また、人が機器の前で立ち止まる必要なく顔認証を行いたい場合は、専用のタイプを導入しなければなりません。顔認証システムを選定する際は、どのような環境で、どのような機能を持ったシステムが必要なのかも整理しておくことが重要です。
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まとめ
顔認証システムは非接触かつ即時に本人確認を行えるため、スピーディで衛生的な出入管理が可能です。今後は、施設内のセキュリティ管理を目的とした導入にとどまらず、多くのアプリケーションやシステムなどのログインにも、顔認証システムが活用されるかもしれません。顔認証システムを導入する際は、認証スピードや精度が自社の求めるレベルのものか、入退室管理など他システムと連携できるか、利用環境に適しているかなどを確認したうえで選定しましょう。
なお、顔認証技術では特に個人情報保護の観点で、データの取扱いには細心の注意が必要です。セキュリティポリシーの見直しや周知などを行い、トラブルが発生しないように努めましょう。