避難所の感染症・リスク対策と避難所運営のポイント

避難所の感染症・リスク対策と避難所運営のポイント
2021.03.23

災害が発生した際には速やかに落ち着いて避難を行い、1人ひとりが命を守ることを最優先に行動する必要があります。そのような大規模災害に見舞われた際、多くの方が避難先として地域の避難所で一定期間生活をすることになります。この記事では、災害発生から被害の収束まで沢山の避難者を受け入れる必要のある避難所について、昨今の感染症対策を踏まえながら運営するためのポイントについてご紹介します。

自然災害被害を想定した備えが大切

日本の自然災害発生件数の推移

以下は、1971年から2018年までの日本における自然災害の発生件数の推移をグラフにしたものです。5年おきに件数を集計していますが、2016年~2018年のみ3年間となっています。

1971年から2018年までの日本における自然災害の発生件数の推移グラフ

日本は旧来自然災害が多い国土であるため、個人や自治体、企業を問わず自然災害被害を想定した然るべき準備や備えが大切であることが分かります。

災害発生時は余裕を持った避難が重要

災害の発生時から、すぐに避難の判断をして迅速に行動することが人々の命を守ることにつながります。また台風などある程度予測可能な災害では、被害の発生以前から素早い避難受け入れを行えるようにしておくことが重要です。

警戒レベルで避難が行われることを考える

避難者は災害の危険が予測される状況などを国や自治体が発令する注意報・警報や現時点での警戒レベルで確認します。避難所を運営するにあたっては、それに応じて避難の受け入れ準備をされることでしょう。

災害警戒レベル1(気象庁による発表)

まだ警報を出すレベルへは至っていないものの、今後警報級の災害リスクが発生する可能性がある状況です。気象情報や防災情報について最新のものを確認し、災害への心構えを高めることが必要になります。

災害警戒レベル2(気象庁による発表)

注意報レベルでの災害リスクが想定される状況にあります。防災気象情報として、「氾濫注意情報」「大雨注意報」「洪水注意報」「高潮注意報(警報に切り替える段階ではない状況)」が発表される段階です。気象庁がリアルタイムで発表する危険度分布が「黄色」とされている地域においては、災害想定区域や避難所および避難経路の確認を行う必要があります。

災害警戒レベル3(市町村による発令)

災害発生が想定される状況にあります。防災気象情報としては「大雨警報(土砂災害の可能性)」「氾濫警戒情報」「洪水警報」「高潮注意報(警報に切り替える可能性が高い状況)」が発令される段階です。この時点で危険度分布が「赤」に該当する地域では、避難準備や高齢者等の避難開始に関する情報発令に留意しましょう。また、高齢者など災害時避難においてリスクがある方の避難実施についても判断が必要です。

災害警戒レベル4(市町村による発令)

危険度分布が「紫」にあたる地域では、安全な場所への避難が必要となる状況です。防災気象情報としては「土砂災害警戒情報」「氾濫危険情報」「高潮特別警報/高潮警報」が発令される段階です。避難勧告が発令される可能性が高い地域ではその情報に留意し、危険度分布を確認の上勧告の有無にかかわらず避難の自主判断を行いましょう。近くに河川がある場合、その水位情報についても確認が必要です。

災害警戒レベル5(市町村による発令)

既に該当の地域で何らかの災害が発生している状況です。防災気象情報では「氾濫発生情報」や「大雨特別警報」がこの時点で発令されます。どのような人も人命を守ることを最優先にし、ただちに最善の行動をとることが求められます。

災害時の避難生活の形態

災害が危ぶまれる状況や災害発生時においては避難が必要ですが、避難の形には大きく分けて以下の3通りがあります。また避難については、国や自治体に定められている避難のガイドラインに則って、避難勧告を出すなど自治体が判断します。

国や自治体指定の避難所

体育館などの施設を避難所とすることが多く、報道などでもよく目にする避難形態です。

国土地理院による指定緊急避難場所データ
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/hinanbasho.html

在宅避難

自宅が被害を受けていないまたは受けた被害の程度が軽微で、かつ二次災害の発生リスクが低い場合の避難形態です。そのようなケースでは、自宅に居住したまま周辺の被害復旧を待つ「在宅避難」を選択することもできます。
自治体から在宅避難が可能と想定できるケースとしては、自宅が以下のような状況であることが挙げられます。

  • 自宅の被害が「なし」または「軽微」で、二次被害を受ける可能性が低い
  • 自宅に食料や、ライフラインに代わる生活用品が確保されている

車中避難

自宅の安全が保証されておらず、避難所の収容人数がいっぱいになって入れない場合は、自治体判断のもと、自家用車などの車内で避難生活をする「車中避難」という選択肢があります。また、避難所での生活がさまざまな理由で困難な場合において車中避難が選択されるケースもあります。指定避難場所に駐車場がある場合は、そこで車中避難をする場合もあります。
車中避難によるリスクとしては、狭いスペースに長時間滞在し同一姿勢を続けることで発症を招く「エコノミークラス症候群」の危険性が挙げられます。意識して手足を伸ばす機会を作り、水分をこまめに補給するなど体調管理に留意しましょう。また、トイレや入浴の機会が減ることでの衛生面のリスク、情報源に乏しくなるため最新情報が届きにくいデメリットなども想定されます。簡易トイレや清拭シートを車内に用意して備え、車中避難時はラジオなどで災害に関する最新の情報に気を配りましょう。

避難所で起こるさまざまなリスク

避難所で起こり得るおもなリスクには、以下のようなものがあります。

災害関連死

災害関連死とは、災害そのものの被害によって人が亡くなるケースとは異なり、その後の避難生活での負担によって心身に不調をきたすことで死亡するケースです。

栄養失調

長期にわたる避難生活による栄養状態の悪化が栄養失調を引き起こし、体調の悪化を招くおそれもあります。

セクシャルハラスメント・性犯罪

避難所では個人のプライバシーが十分に確保されにくい場合も多く、それにともなうセクハラなどの嫌がらせや性犯罪のリスクも高くなると言われています。

暑さや寒さに対する体温調節の問題

広い空間に設けられた避難所では、冷暖房が十分に機能しないこともあり得ます。また避難者も衣類や布団による体温調節が困難になり、体調不良を招く可能性があります。

窃盗

昔から「火事場泥棒」という言葉がある通り、助け合いが必要な災害現場にもかかわらず、避難所などでの窃盗をはたらく者が現れることがあります。

避難生活におけるTKBとは?

災害への備えに関する話題のなかで「TKB」という言葉を聞く機会が増えたと思います。TKBとは、日常生活に必要な「トイレ・キッチン・ベッド」の3つの頭文字をとったもので「避難生活を安全に送るために必要な3つの設備」を表しています。
またTKBの3つが十分に確保されていない現場では、先にご説明した避難生活における数々のリスクにつながりやすいとも言えます。

避難所生活で起こりやすい健康問題

避難所では、1人ひとりの利用に十分なトイレの数が確保されていないことが多くなります。このため避難所での生活を余儀なくされる人の多くは、トイレを我慢する、トイレに行かないよう飲食を控えてしまうといった傾向になりがちです。これが水分不足による脱水や栄養失調などを招き、健康被害につながりやすくなるという指摘もされています。

避難所で起こる感染症リスク

昨今は感染症予防への配慮が必要な状況となったため、避難所で生活する際の感染リスクについても知っておく必要があるでしょう。おもに以下のような行為や状況が、避難所での感染リスクを高める可能性があるとされています。

避難所での感染リスクとなる状況・行為

  • 人のせきやくしゃみによる飛沫
  • 狭い空間で多くの人が雑魚寝したり、長時間滞在したりすること
  • 同じ時間に多くの人が一斉に食事をとること
  • 不衛生なトイレを多くの人で共用すること

など

特に重要な対策を必要とする感染症

  • インフルエンザ
  • 感染症胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)
  • 肺炎
  • 結核
  • 食中毒
  • ほか新型コロナウイルス感染症など、流行性のある感染症

避難所運営における感染症対策

避難所での生活においては、さまざまな健康リスクが懸念されることが分かりました。それに加え、今後は適切な感染症対策も必要となってきます。ここでは、これまで挙げた避難生活のリスクも踏まえた避難所運営での感染症対策についてご紹介します。

災害発生前

災害発生時のために水や食料を備蓄しておく際も、取り扱う人のこまめな手洗いや手指消毒などを心がけ、感染防止のための対処が必要です。

災害発生時

【避難所立ち上げフェーズ】

災害が発生し多くの避難者が避難することを想定し、避難者の初期受け入れを始める段階です。この段階は、高齢者や障がいのある方、健康リスクを抱えた方が避難所を訪れるタイミングとも一致します。

感染を防ぐ避難所開設のポイントとして、マスクや消毒液などの用意、受け入れ時に避難者の健康状態の確認をすることが大切です。さらに避難所生活では、世帯ごとに2m以上の間隔を取り区画するなど感染拡大防止の対策を行いましょう。

避難所立ち上げフェーズ

【避難所での受け入れにともなう検査】

健康状態に関する質疑応答でのチェックや入り口での検温など、入所時に感染症に関する検査を実施します。

【検査後の避難者のグループ分け】

もし検査によって発熱など何らかの疾患が疑われる避難者がいることが分かったら、症状がある人と健康状態が良好な人でグループ分けを行いましょう。

被害拡大時

【避難者の人数が拡大し「3密」が危ぶまれるフェーズでは】

被害が拡大すると避難所へ入る人の数も増え、感染症予防でリスクが高いとされる「3密(密室、密集、密接)」の状況が発生する可能性も高くなります。居住区スペースを「色」で分けるなど一目で管理状況が分かるゾーン分けを行う、個人や家族単位で2メートル以上の空間を確保するなど、入所時・滞在時の感染予防を実施しましょう。
また避難者の方にカラーバンドを身につけてもらったり、顔認証や簡易ゲートでの入退室管理を取り入れたりして人の出入りをスムーズにしましょう。

【間仕切りの設置】

壁やカーテンなど、簡易間仕切りを設置した物理的な感染対策も取り入れましょう。

【換気や空間消毒】

空気中に浮遊する飛沫に含まれる菌・ウイルスなどを積極的に除去するため、施設内の換気の励行や、オゾン消毒などを取り入れましょう。

【隔離や消毒】

所内で感染が分かった場合は、オゾンによる空間消毒を行ったり隔離テントを利用したりすることにより感染拡大の防止が必要です。

【食品管理の徹底】

避難所で食べるものについては加熱処理を徹底し、食器類を共有しないなどの対策を必ず行いましょう。

【トイレの清掃】

すべての避難者が利用するトイレは定期的に清掃し、衛生管理を徹底しましょう。

これらのほか、避難場所の不足に対応するため、駐車スペースがある場合は車両内に避難場所を設けることも検討しましょう。また適切な電源および空調の供給を実施し、情報交換システムを活用しスタッフ間で最新情報の共有に努めてください。情報共有システムは、役所と避難所の情報連携にも活用できます。

復旧作業を行う段階

災害が収束に向かい、復旧作業に入る段階です。大規模地震の場合は発生から2か月以上、スーパー台風であれば被害から10日後、水が引く時期が目安です。この時期も引き続き、避難所内で行ってきた感染対策を継続的に実施しましょう。

【罹患者の発生、クラスター感染発生】

避難所で感染症に罹った人や感染者クラスターが発生した際は、避難所内で隔離や消毒を行う必要があります。また必要に応じて罹患者専用のスペース確保や、医療用テントの設営が求められます。

被害拡大を抑える防災マニュアルの策定

災害のリスクとひと口で言っても自然災害だけではなく、システム障害や火災、事故など多くの被災リスクがあります。それらの被害を抑えるため、ありとあらゆるリスクを収集するには相応の人的・時間的コストがかかってしまうでしょう。また、人的リソースに依存したリスクの収集では情報を取り漏らすおそれもあります。自治体内のリスクに関する情報を収集し、防災マニュアルを作成した上でそれをBCP(事業継続計画)に反映させるなど、体系的な被害拡大防止策が必要でしょう。

ALSOKの「避難所ソリューション」

防犯・防災に長く携わってきた警備会社のALSOKでは、さまざまな側面から災害対策に関するサービスをご提供しています。事業継続にかかわるBCP対策や停電に備える可搬型蓄電ボックスなど企業向けサービスのほか、災害時に高齢者の避難を支援するサービスもあります。

高齢者見守りに関するサービスを利用中の方には、それらを活用した避難支援を行います。ALSOKの高齢者向け見守りサービス「HOME ALSOK みまもりサポート」にも、避難情報伝達や利用者の位置情報把握などの支援サービスが付帯されています。みまもりサポートを活用することで、避難遅れの確認や避難状況の把握を行い、的確な避難支援を実施しましょう。

まとめ

この日本において、災害リスクを完全に回避して生活することは難しいと言われています。突然の災害に見舞われた際にも落ち着いて迅速な避難を行い、人命を守るための取り組みと備えは地域を問わず必須と言えるでしょう。
それに加えて昨今の情勢から、数多くの人が集まる避難所の感染対策も必要となりました。被害拡大を防止しながら感染対策も行っていくことが求められるこれからの災害対応を意識し、備えておくことが大切です。
ALSOKは創業以来、多種多様な災害案件に従事することによって、災害対策に関するノウハウを蓄積してまいりました。そのなかには、災害発生時の避難所開設・運営にともなう感染症対策も含まれております。この点において、弊社は災害発生前の備えから、災害発生、災害復旧までのあらゆるステージにおいて、ワンストップで必要な対策・物資等をご提供可能とした『避難所ソリューション』もご用意しております。ぜひ、最寄りのALSOKの事業所にお問い合わせください。

ALSOKの安否確認サービス(アプリ版)

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