鍵ものがたり
2016年05月02日時点の情報です
左:錠、右:鍵。2つの鍵山のあいだが底へ向けて狭くなっており、板バネをしっかりはさむことができる。
和錠は名前の通り、日本で作られるようになった鍵です。
内部に重なった板のバネがあり、これをカギで挟むことによって抜ける仕組みになっています。
泰平な時代だからこそ和錠は進化した?
日本に現存するもっとも古い和錠は飛鳥時代のものといわれ、奈良・正倉院の蔵にも和錠がかけられています。
工夫を凝らした和錠が多く作られるようになったのは江戸時代に入ってから。 戦乱のない世が長く続いたため、富を蓄えた武家や商人たちが次々と蔵を建て和錠の需要が高まったこと。 さらに、注文の減った刀鍛冶職人が、副業として和錠作りを始めたことが大きく影響したようです。
職人の技が光る板バネの仕掛け
和錠は「板バネ」を利用して開閉します。 「鍵」によって板バネを挟むことで「弦つる」(閂かんぬきともいう)が抜け、開錠するのです。 板バネの数は少なくて2本、多いものでは6本。数が増えるほど複雑になり、破られにくい錠前といえます。 とくに刃物の産地では、優れた和錠が生まれました。土佐錠(高知)、阿波錠(徳島)、因幡錠(鳥取)、安芸錠(広島)などが有名です。
鍵の仕組みが必要以上に複雑だったり、鍵穴ひとつにも装飾が施されていたり……と、職人が腕を競いあい、多くの名錠が生まれました。 「二つとして同じものがない」。これが和錠の魅力でもあります。
当時、和錠は蔵の豪華さを示す、いわば富の象徴でもありました。 しかし、大量生産に向かない和錠は現在では生産されていません。
古い蔵を見かけたら、扉に注目してみるとおもしろいかもしれませんね。
金庫と鍵の博物館館長 杉山泰史[すぎやま・やすし]
東京都墨田区千歳3-4-1
☎03-3633-9151