手話の必要性と基本的な手話
声の代わりに手を使って話す手話は、日本語をそのまま手を使って表現していると思われがちですが、実は表現の仕方や文法もまったく違うため、英語やフランス語、中国語などの語学と同様の努力が必要となります。普段あまり使う機会はないかもしれませんが、駅や街で不意に外国人に話し掛けられることがあるように、手話での対応が必要な場面に遭遇することもあるかもしれません。
大切なのは、誰しもが同じように不自由なく暮らしていける社会の実現です。そのためには健常者は障がいを持つ方のことを、障がいを持つ方は健常者のことを事前に深く理解しておく必要があります。ここでは主に健常者の方に向けて、聴覚に障がいを持つ方の悩みや特徴、ぜひ覚えておきたい簡単な手話などをご紹介致します。
聴覚に障がいを持つ方の悩み
出典:NHKハートネット
聴覚障がいは見えない障がいともいわれ、一見しただけでは健常者との違いがわかりません。そのため、街中で困っていても手を差し伸べてもらいにくいという問題があります。
ではどんなときに困ることが多いのでしょうか。
聴覚に障がいを持つ方の多くが「情報が入ってこない」「情報が伝えられない」ということを悩みにあげていることがわかります。
ではどんな場所で困ることが多いのでしょうか?
こちらの問いに対しては「職場・学校」「交通」「病院」が20%前後でほぼ同率、そのほかでは「娯楽」「買い物」「役場」などが困ることの多い場所としてあげられています。聴覚に障がいを持つ方は、社会生活の中で自分が困ったことになりそうな場面について十分認識をしており、できる限り入念に準備をしてから出かけます。しかし、生活をしていくうえでどうしても避けて通れない場所があり、その代表例が上にあげられたような場所ということができます。
では、困る内容としては具体的にどんなことがあるのでしょうか。
これは「鉄道のアナウンス」が1位となっています。平常運行している電車に乗ることは慣れてしまえばどうということはないのですが、困るのは電車が何かしらの理由で停止していたり、発車の番線が変更されたりしている時です。最近ではホームなどに電光掲示板が整備されていて、そこに情報が表示されるようになってきたので随分と改善されましたが、それでも掲示板に情報が載るまでに時間がかかったりすることもあります。健常者は駅のアナウンスで自分がどう次の行動をとればいいかを判断することができますが、聴覚に障がいのある方は健常者たちがバタバタとその場を立ち去る中、不安と戦いながら掲示板に情報が載るのをじっと待つしかありません。
続く2位の「エレベーターの非常通報ボタン」や3位の「110番、119番の緊急ダイヤル」、4位の「災害時の避難所や町内アナウンス」は、1位と比較して発生頻度は少ないものながら、いざ必要となったときには、命に関わる場合も想定されるのでより事態は深刻です。
たとえばエレベーターに閉じ込められてしまった時、非常通報ボタンを押しても聴覚に障がいがあれば、相手が何を話しているかがわかりません。また、先天的に聴覚に障がいがある方は発音の仕方がわからないため、基本的に言葉を発することができません。ですから、ひとりでエレベーターに閉じ込められたりすると、どうすることもできない状況になってしまいます。これは電話を使う110番や119番でも同じです。また、災害時の緊急放送なども聞き取ることができないので、避難を促されても理解できずその場にとどまってしまうことになります。
これらのことは、耳が聞こえる側の人間がほんのちょっと想像力を働かせれば解決できるようなことが多いのですが、現状では残念ながらまだそこに至っていないのです。
もし、こうした事態の時に近くでうまく反応できずに戸惑っている人を見かけたら、その人は聴覚に障がいを持った方かもしれません。視界の中に入って肩をやさしく叩いてみてください。手話ができなくても筆談することはできます。
目に見えている光景によって、異常事態が起こっていることは理解できても、何の情報も得られず、尋ねることもままならない状況にいる人の不安の大きさは、想像するだけでも十分に理解できると思います。健常者の側がほんのちょっと想像力を働かせて行動することで、こうした不安の大部分を解消することができるのです。
社会への認知と理解を呼びかける表示マーク
聴覚が不自由なことを表すと同時に、聞こえない人・聞こえにくい人への配慮を表すマークとして耳マークがあります。
では、困っている人を見かけた時にどのように対応すべきでしょうか。
聴覚障がいを持つ方に話しかける時に大事なことは、まず相手の視界にしっかり入って合図を送るということです。アイコンタクトを取る前に突然肩を叩いたりするとびっくりさせてしまうこともありますので注意が必要です。
対応の方法ですが、たとえばスマートフォンのメモ機能を活用して筆談をすることができます。また聴覚に障がいを持つ方の多くは、唇の動きを読むことができます。口頭で話かける時には、口元がはっきり見えるようにして、ゆっくりと口を大きく開けて話しましょう。
手話によるコミュニケーションもあります。手話は多様な表現方法を学習する必要がありますが、こちらでは覚えておきたい基本的な手話をいくつか紹介します。
手話の必要性と基本的な手話
- 挨拶の言葉(こんにちは)
「昼」+「あいさつ」で表します。
「昼」右手の人差し指と中指を立て、人差し指のつけ根をおでこの中央に当てます。
「あいさつ」両手の人さし指の腹を向かい合うように立て、おたがいがおじぎをするように曲げます。 - 健常者が普段使う動作と同じ手話
- 何かお困りですかと、問い掛ける言葉
1「何か」右手の人差し指を立て、肩の前で左右にふります。
2「こまる」右手の指先を集めるようにして「こめかみ」に当てて、軽く前後に動かします。困って頭をかく動作です。
3「~か?」右手のひらをななめ上に向け、前方にたおしながら少し前に出します。たずねるような表情で表現しましょう。 - 一緒に行きましょう
1 胸の前で両手の人さし指を立て、甲を自分のほうにむけます。指先を上に向けたまま、胸の右前でくっつけます。
2 つけた両手の人さし指を、そのまま前に出します。
一度マスターしても使わないとすぐに忘れてしまうので、友人・知人同士でやってみるなど、できる範囲で繰り返し練習しておきましょう。
出典: 東京都福祉保健局「話そう!手のことば~おもてなしの手話BOOK」「心のバリアフリーの実践に向けたハンドブック」
NHKハートネット「これだけは知ってほしい!聴覚障害のある人たちの悩み」