さすまたの使い方について解説
大切な命を守るための防犯グッズのうち、侵入者・不審者への「時間稼ぎ」に適しているのが、さすまた(刺股、刺又)です。近年、校内で多数の児童が犠牲になった付属池田小学校事件等への反省から、学校・施設・店舗への護身用具の配備が急速に進んでいます。
本記事では、さすまたを配備する目的や、さすまたの使い方のポイントについてわかりやすく解説します。
目次
さすまたとは?学校や店舗の安全対策に欠かせない防犯ツール
さすまた(刺股、刺又)とは、叉護杖(さごじょう)とも呼ばれ、長さ2~3メートル程度の柄に大きなU字型の金具がついた護身用具です。
古くは室町時代に使用された武器にルーツを持ち、江戸時代の捕物や町火消の道具として用いられたことでも知られています。
学校・施設・店舗を侵入者から守る防犯安全器具として広く普及しており、たとえば都内公立学校の80%に配備されています。[注1]学校を対象とした侵入窃盗の認知・検挙件数は、平成21年(2009年)より減少傾向にありますが、[注2]引き続きさすまた・盾・ネット発射機・催涙スプレーなどの防犯設備を配置し、侵入者対策を継続する必要があります。
ここでは、さすまたを設置する目的や、さすまたの種類による違いを解説します。
さすまたの目的は「時間稼ぎ」
江戸時代の捕物のイメージ等から、さすまたは「不審者・侵入者を取り押さえるもの」と誤解しているケースがあります。
しかし、さすまたは相手を凶行に走らせないための威嚇や、警察が到着するまでの時間稼ぎのための道具であり、相手を捕まえるためのものではありません。警察庁の「令和4年版 警察白書」によると、令和3年(2021年)の110番通報後の現場到着時間(リスポンス・タイム)は、平均8分24秒でした。[注3]この8分24秒の間、身を守り、生徒や従業員、お客様の命を守るための道具として、さすまたが様々な施設に配備されています。
[注3] 警察庁:令和4年版 警察白書
さすまたの種類による違いは?軽量タイプや防犯診断つきの製品が登場
一般的なさすまたは、柄の先にU字型の金具が付属しています。製品によって異なりますが、価格は1本あたり1万円程度です。最近はアルミ合金などの軽い材質を使用した、軽量タイプのさすまたが増えています。重量はおよそ1kg程度で、女性の方でも簡単に扱えるのが特徴です。
また、さすまたの購入とセットで、警備保障サービスによる「防犯診断」が利用できる商品も登場しています。防犯対策・セキュリティのプロとしての目線から、学校の不審者対策に穴がないか、防犯グッズの設置場所は適切かなど、様々なアドバイスが受けられます。
さすまたの正しい使い方4つのポイント
さすまたは侵入者を捕まえるためのものではなく、相手を威嚇したり、警察が来るまでの時間を稼いだりするための護身用具です。不審者へ適切に対応するため、大切なポイントは4点あります。
胴押さえ・袈裟押さえ・足押さえの3つの基本動作
さすまたで相手を牽制する時の基本動作は、胴押さえ・袈裟押さえ・足押さえの3つです。さすまたのU字部分の先端はゴムでできており、滑り止めの役割を果たすため、うまく壁に押さえつけることで、侵入者の動きを牽制できます。侵入者を壁やコーナーに追い詰めるようにさすまたを使用しましょう。
その他、侵入者が床に倒れた場合は、距離をとって床に押さえつける方法もあります。さすまたの長さは2~3メートル程度あるため、侵入者の凶器が届かないところから、安全に相手の動作を制限することができます。
しかし、無理に相手を制圧しようとするのではなく、あくまでも警察・警備員が来るまでの時間稼ぎとしてさすまたを使用しましょう。
1人ではなく大勢で囲むように使う
さすまたを使ううえで大切なのが、1人で犯人に立ち向かってはならないという点です。さすまたは長物であり、不慣れな方には取り扱いが難しく、特殊警棒のような防犯用品と違って小回りも効きません。怪我をさせられるリスクも高まりますし、さすまたを犯人に奪われてしまい、より対処が困難になる可能性もあります。原則として、1対1で侵入者に相対することは避けましょう。複数の教員・職員・従業員で連携し、大勢で囲むようにさすまたを使うのが理想的です。1対1だと壁や床がなければ確保が困難ですが、複数のさすまたで囲むことで、相手の動作をより制限しやすくなります。また、侵入者にとっても相手が複数であれば威嚇効果が高まり、凶行に及びづらくなります。これからさすまたを導入する場合は、複数人で対応することを想定して、必ず複数本用意しましょう。
さすまたの保管場所は必ず共有しておく
もう1つ注意が必要なのが、さすまたの保管場所です。さすまたを設置するのは、敷地内に侵入した不審者が手に取りにくく、なおかつ緊急時にすぐ持ち出せるような場所が理想的です。すべての教員・職員・従業員で、さすまたの保管場所を情報共有しておきましょう。
たとえば、店舗や小売店であれば、侵入者が入りにくいカウンターの内側等に設置するのが一般的です。
一方、学校ならどこにさすまたを保管すべきでしょうか。さすまたの存在が生徒に不安を与えたり、生徒がいたずらに使用したりする可能性を考慮して、杖・催涙スプレー・ネット発射機といった防犯装備と同様、倉庫や職員室に保管しているケースが少なくありません。しかし、池田小学校の事件を省みても、緊急事態に倉庫や職員室へ向かう時間的余裕があるとは限りません。さすまたを学校に設置する場合は、その場ですぐに使用できるよう、子どもたちのいる教室や付近の廊下を選ぶのが理想的です。近年はカラフルでデザイン性が高い製品が多数登場しているため、校内のオブジェのような感覚で設置できます。
定期的に訓練の実施・講習会への参加を
さすまたは取り扱いが難しいため、不安な方は企業や地方自治体のホームページ等を探し、「さすまた教室」へ参加することをおすすめします。せっかくさすまたを購入しても、使い方を知らなければ、いざという時に活用できません。さすまたに限らず、すべての教員・職員・従業員が、設置されている防犯用具の使用法を身につけている状態が理想的です。
また、さすまたの使い方に加えて、さすまたの仕様を想定した実働訓練を定期的に実施する必要があります。あらかじめ学校・施設・店舗の侵入経路を洗い出し、定期訓練ごとにシナリオを変更して、侵入者がどのようなルートで入り込んできても迅速な初動対応ができるよう、繰り返しシミュレーションを実施しましょう。
さすまたの正しい使い方を学び、定期的な実動訓練を
防犯カテゴリの製品の中でも、さすまたは不審者・侵入者の動作を制限し、警察が駆けつけるまでの時間を稼ぐことに長けています。さすまたをただ設置するだけでは効果がなく、さすまた教室や定期訓練への参加を通じて、スタッフ1人ひとりが使い方を学ぶ必要があります。大切な命を守るため、さすまたを始めとした防犯用品を設置しましょう。
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