女性にAEDを使うときの注意点|ネックレスやブラジャーは外すべき?
総務省消防庁が発表している統計によると、一般の方がAEDを使用して応急処置を行った傷病者の1ヵ月後生存率は50.3%と半数以上ですが、心肺蘇生を実施しなかった場合の1ヵ月後生存率はわずか6.6%でした。[注1]
AEDの使用率も年々増加しており、一般の方が行える最善の応急手当のひとつとして認知されつつありますが、女性の傷病者にAEDを使用する際は、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
そこで今回は、AEDを女性に使用する場合の注意点をわかりやすくまとめました。
目次
女性にAEDを使用しても原則免責される
女性にAEDを使用することで、痴漢やセクハラとして訴訟問題に発展してしまうのではないかと気にしている方は多いでしょう。
厚生労働省の「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書」によると、一般市民が人命救助のためにAEDを使用した場合にやむを得ずした行為については刑事、民事の責任ともに「原則として免責されるべき」としています。
人命救助は1分1秒の迷いが傷病者の救命率を大きく左右します。女性だからとAEDの使用をためらうことで助けられる命が失われるよりも、救命処置を最優先とし、自信を持って積極的に救命活動に取り組みましょう。その中で女性にAEDを使用する際の注意点を理解し、傷病者のプライバシーを守る配慮を行うことが重要です。
女性にAEDを使用する際の注意点
心停止を引き起こした傷病者が女性だった場合、AEDを使った応急手当を行う上で、特に注意しておきたいポイントを4つご紹介します。
金属製のアクセサリーを外す
AEDは、心臓が細かく震える「心室細動」を起こしている人に対し、電気ショックを流すことで心臓のリズムを正常に戻すことができます。
傷病者の体に電気ショックを流す時は、胸部に電極パッドを貼り付けますが、金属製のアクセサリーなどが電極パッドに触れたり、2つの電極パッドの間にあると、電気ショックの効果が不十分になるだけでなく、やけど等の原因になるおそれがあります。
特に女性はネックレスやペンダントなどの金属製アクセサリーを身につけていることが多いので、女性にAEDを使用する場合は、アクセサリーの有無を事前に確かめましょう。
アクセサリーを外すのが難しい場合は、素手またはAEDに付属しているレスキューセットなどに付属しているハサミで切断するか、できるだけ電極パッドからアクセサリーを遠ざけるようにしましょう。
ブラジャーは必ずしも外す必要はない
AEDの電極パッドを直接素肌に貼り付けることができれば、必ずしもブラジャーを外す必要はありません。ただし、電極パッドを取り付ける際は、ブラジャーを挟まず、直接地肌に貼り付けるよう注意しましょう。
余裕がある場合は、AEDのパッドを貼り付けた後、上から上着やタオルなどをかけて下着や胸が見えないようにするなど、可能な範囲で倒れている女性に配慮しましょう。
女性でもためらわずにAEDを使用する
AED使用の際、ブラジャーを取り外す必要はないと説明しましたが、電極パッドを地肌に直接取り付けるには、やはり衣類を脱がす必要があります。
ヘルステック分野のリーディングカンパニーとして知られる「フィリップス」が、メールマガジンの読者を対象に実施したアンケート調査によると、自分が屋外で倒れ、至急の救命行為が必要になった場合、AEDを使うために異性に衣服を脱がされることに「不快感を感じる」と答えた女性は16%、「不快感までは感じないが、抵抗がある」と回答した女性は70%にも上ったそうです。[注2]
[注2]フィリップス「いつ、誰にでも起こりうる心肺停止の怖さ。あなたができる救助の心構え」
不快感・抵抗感を感じないと回答した割合が77%に上った男性と比べると、まさに対照的な数字であり、男性が女性傷病者に対してAEDを使用することをためらう大きな理由の一つに数えられています。
不快感・抵抗感を感じないと回答した割合が77%に上った男性と比べると、まさに対照的な数字であり、男性が女性傷病者に対してAEDを使用することをためらう大きな理由の一つに数えられています。
しかし、心原性心肺機能停止からの蘇生率は、発作が起こってから心肺蘇生を開始するまでの時間によって大きな差が生まれます。何らかの理由によって心室細動が発生すると、心臓は細かく震えるだけで血液を送り出すことができず、数秒で意識を失った後、数分で脳をはじめとする全身の細胞が死滅していきます。
電気ショックが1分遅れるごとに、救命率は10%ずつ低下するといわれていますが、令和4年における救急車の現場到着所要時間は全国平均10.3分で、10分以上かかっているケースは全体の約4割に上っています。そして心肺停止機能が目撃された時点から、救急隊が心肺蘇生を開始するまでの時間が10分以内の場合の一か月後の生存率は9.1~11.8%ですが、10分を超えると9.3%、15分以上が経過すると5.2%と大幅に減少します。
心肺機能停止への応急手当は一分一秒を争うため、傷病者が女性であってもためらわず、すぐにAEDを使った処置を行うことが大切です。[注3]
妊娠中の女性でもAEDを使った応急手当を行う
心停止した女性が妊娠中だった場合、電気ショックが胎児に悪影響を及ぼすのでは、考える方も多いでしょう。
しかし、母体が助からなければお腹の赤ちゃんの命も危険にさらされるため、心停止が疑われる場合は、たとえ女性が妊娠中でもAEDを積極的に使用しましょう。
女性に配慮したAEDの使い方と心肺蘇生法
女性の傷病者に対し、心肺蘇生法とAEDによる応急手当を行う方法を5つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1.反応の有無を確認する
倒れている傷病者に対し、耳元で「大丈夫ですか?」などの声かけを行ったり、鎖骨あたりを叩いたりして反応の有無を確認します。
反応がなかったら意識なしと判断し、心肺蘇生法の実行に移ります。
ステップ2.助けを呼ぶ
119番通報し、救急車を呼んでもらいましょう。傷病者の意識がない場合、すぐに心肺蘇生を行わなければならないので、周囲に人がいる場合は、119番通報およびAEDの運搬を特定の人にお願いしましょう。
その際、助けを借りる人を指さしなどで指定し、「119番通報してください」「AEDを持ってきてください」など、具体的な指示を出すと、声かけされた人もすばやく反応してくれます。
ステップ3.呼吸の有無を確認
傷病者の顔に自分の頬を近付けつつ、目線は傷病者の胸元に向け、正常に呼吸をしているかどうか確認します。
呼吸が確認できない場合や、判断に迷った時は、胸骨圧迫を開始しましょう。
ステップ4.胸骨圧迫を行う
傷病者の胸の真ん中に両手を重ねて当て、上になった手の指を、下になった手の指の間にかませたら、強く・速く・絶え間なく圧迫します。
1分間に少なくとも100回、連続30回のテンポで、傷病者の胸が5cm以上沈むくらい力強く圧迫するのがポイントです。
ひじは真っ直ぐに伸ばし、傷病者の体に対して垂直に、体重をかけるように押すことを意識しましょう。
ステップ5.AEDを使用する
緊急時とはいえ、異性に衣類を脱がされることに抵抗を感じる女性が多いことも事実ですので、ブラジャーをはずさずに電極パッドを貼る、余裕があれば上からタオルや衣類をかけるなど、女性に対する配慮も忘れないのが理想です。
AEDが到着したら、電源を入れ、音声ガイダンスに従って操作します。AEDには電極パッドを貼る位置を示すイラストが描かれていますので、それを見ながら右胸上部と左脇腹にそれぞれパッドを貼り付けます。
パッドは地肌にしっかり密着するように貼り、水や汗で濡れている場合は事前にタオルなどで拭き取りましょう。電極パッドを装着すると、AEDが自動的に心電図を解析し、電気ショックが必要かどうか診断してくれます。
電気ショックが必要と診断されたら、ショックボタンを押し、自分を含め、周囲にいる人を傷病者から遠ざけます。
AEDは2分ごとに心電図解析を行い、電気ショックの必要性を診断しますので、救急隊に引き継ぐまでは電源を付けたままにしておきましょう。
ステップ6.救急隊が到着するまで繰り返す
救助はこれで終わりではありません。電気ショックが行われても容体に変化がない場合は、救急隊が到着するまで電極パッドを貼ったままふたたび「胸骨圧迫」を行ってください。
2分経つと、AEDが自動的に心電図の解析をスタートします。心臓の拍動が戻って「必要ありません」というガイダンスか、「ショックが必要です」というガイダンスが流れるまで胸骨圧迫からの一連の流れを繰り返します。
心肺蘇生法とAEDの使い方(JRC蘇生ガイドライン2015版)
AEDを使ってはいけない場合
傷病者であっても、心停止が認められない場合には、AEDを使用してはいけません。以下の3つのケースではAEDを使用してはいけないため、傷病者の状態をよく確認しましょう。
- 傷病者の意識がある場合
- 傷病者が呼吸をしている場合
- 傷病者の脈拍を感知できる場合
上記のように傷病者の心停止が認められない場合には、AEDを使用してはいけません。AEDを使用する前に、傷病者へ呼びかけたり肩をたたいたりしても反応がなく、呼吸をしていないことを確認する必要があります。
また、心停止が認められる場合でも、電極パッドを装着し、AEDの心電図解析によって「ショックは不要です」といった音声メッセージが流れたときには電気ショックが必要な状態にないため、AEDは使用せず胸骨圧迫を再開します。
女性にAEDを使用する場面に遭遇した際にできること
女性への救助活動では、救助者ではない場合でもできることが多くあります。
ここからは、女性にAEDを使用する場面に遭遇した際、協力者としてできることをご紹介します。
AEDを取りに行く
救助者が助けを求めていたら、まずAEDを取りに行きます。少しでも早く傷病者へ対応ができるよう、自宅の近くやよく行く場所のどこにAEDが設置されているかを把握しておくと良いでしょう。
周囲の視線から女性を守る
電極パッドを素肌に直接貼り付けることができれば脱衣させる必要はありませんが、場合によっては脱衣させた方が良いケースもあります。その際も、傷病者のプライバシーに配慮することを忘れてはいけません。特に女性の傷病者にAEDを使用する際は、周囲の視線から守ることが大切です。救助活動に関わっていない人には離れてもらい、複数人いれば人垣を作って傷病者への視線を遮りましょう。
また、電極パッドを貼った上から衣服やタオルをかけて肌を隠すことでもプライバシーに配慮することができます。
到着した救急車や救急隊員を誘導する
救急車のサイレンが聞こえてきたら、救急隊員が素早く傷病者のいる場所へ向かえるように誘導するのも協力者の重要な役割です。傷病者が倒れている場所が屋内の場合は、建物の外で待ち、自動ドアやオートロックを開けたりエレベーターを待機させたりしておきましょう。また、搬送の経路上にある障害物は、救急活動の妨げにならない場所へ移動させておきます。
傷病者の家族に連絡をする
傷病者が救急車で搬送された後は、傷病者の家族に連絡した方が良いケースもあります。連絡先が分かる場合はできるだけ早急に傷病者の家族へ連絡し、傷病者の状態や搬送先の病院名を伝えましょう。
女性への配慮を大切にしつつ、適切にAEDを使用しよう
心停止からの蘇生は1分1秒を争いますので、傷病者が女性でもためらわず、適切にAEDを使用することが大切です。
ALSOKでは、用途や環境に合わせた3種類のAEDの販売・レンタルを行っています。AEDの状態を24時間監視する管理サービスや、納品時の講習実施などのサポートにも対応していますので、もしもの場合の備えとして導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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ALSOKのAED(自動体外式除細動器)について監修者プロフィール
弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士
浅野 英之(あさの・ひでゆき)
東京大学法学部卒。東京大学法科大学院修了。多くの労務問題の相談対応、顧問先企業の労務管理を行なってきた労務問題のスペシャリスト。法律事務所を起業した経験を活かし、ベンチャー企業や中小企業の人事労務のコンサルティングに定評がある。