ゴールボールはどんな競技?基本ルールや見どころをチェック!
若杉 遥 選手
立教大学出身。
主な成績:ロンドン2012パラリンピック 金メダル(2012年)
リオ2016パラリンピック 第5位(2016年)
アジアパラ競技大会 優勝(2018年)
IBSAアジアパシフィック選手権大会 優勝(2019年)
日本選手権大会 優勝(2018年・2019年)準優勝(2016年)
ジャパンパラ競技大会 第2位(2019年)
ゴールボールは、アイシェードという目隠しを装着した状態でボールを投げ合い、ゴールを狙うチームスポーツです。独特の競技であるため、観戦したことがなくルールがわからないという方もいるでしょう。今回は、ゴールボールの基本的な知識やルール、観戦時の見どころをご紹介します。
ゴールボールってどんなスポーツ?
国際大会、国内大会で競技されている男女別競技「ゴールボール」。鈴の入ったボールを転がすように投げ合い、ゴールに入れて得点を競う球技種目です。選手たちは、視覚を完全に遮断し、視覚以外の全神経を研ぎ澄ませてプレイします。試合会場にいるサポーターは、選手たちの邪魔にならないよう、音を出さずに見守るのがルールです。
不要な音のない空間の中、重いボールを投げ合いながら激しく身体を動かすため、「静寂の格闘技」とも呼ばれています。ゴールボールは、特有の競技用具を活用してプレイします。
ボール
小さな鈴が2つ入っているため、投げると音がなります。大きさはバスケットボールとほぼ同じ(直径24㎝・周囲約75.5㎝)で、重さはバスケットボールのほぼ2倍、1.25㎏あります。硬めのゴム製ですが、鈴入りのため空気が入っておらず、バウンドしにくいという特徴があります。鈴の音がよく聞こえるように、小さな穴が8カ所開けられています。
アイシェード
ゴールボールは、全盲・弱視と視覚障がいの程度に関わらず、参加することができます。視野・視力に差がでないようにするため、選手は全員アイシェードと呼ばれる目隠しをして、完全に視覚がふさがれた状態で競技にのぞみます。試合中も、審判がアイシェードのずれを常にチェックして、公平に競技が行われるよう徹底されています。
コート
ゴールボールのコートは18m×9mで、広さは6人制バレーボールと同じです。幅9m、高さ1.3mのゴールがそれぞれの陣地の両端にあります。サッカーと同じようなゴールですが、サッカーより幅があり、高さはありません。
ゴールに接する幅3mスペースがオリエンテーションエリア、その先の3mがランディングエリア、センターラインまでの3mがニュートラルエリアです。選手は、オリエンテーションエリア・ランディングエリアを合わせたチームエリア内で攻撃・ディフェンスを行います。センターラインを越えなければ、ニュートラルエリアまでボールを取りに行くことができます。
また、コートのライン上は5cm幅のテープが貼られており、その下には3mmの紐が通されています。選手たちは紐の凹凸に触れることで自分たちの位置を把握しています。
ゴールボールの基本ルールは?
ゴールボールは、3対3のチーム戦です。チームは、コート内に入る3名と控え選手最大3名、監督やコーチを含むエスコート3名で編成されます。試合時間は前半12分・後半12分の計24分で、合間のハーフタイムは3分です。
試合中は、45秒間のタイムアウトを前半後半合わせて4回までとることができます。
攻撃(スローイング)
基本のスローイングは、投球されたボールが自分たちのチームエリアとニュートラルエリアの両方の地面を最低一回接していれば有効なスローイングとなります。守備側の選手と選手の間や、選手とゴールポストの隙間を狙ったり、バウンドボールで相手を乗り越えるようなスローイングなどを行って、ゴールを狙います。
投球したボールが守備側選手の足や手に当たっても、ゴールに入れば得点になります。
守備(ディフェンス)
ゴール前に3人で横たわり、全身を使ってディフェンスを行います。ボールの鈴の音や振動、相手や味方の選手の息遣い、足音などを頼りにボールの動きを予測してゴールを死守します。
ゴールを守る際、ボールをはじくと攻撃までに時間がかかってしまうため、しっかりと止めて投げ返すことが素早く攻撃に転じるポイントです。
攻撃の際には立ち上がり、守備にまわるときは身体を横にして、1.25kgある重いボールを全身で受け止めるため、かなりの体力を消耗します。
勝敗のつけ方
ゴールボールは、1点でも多くゴールに得点を入れたチームの勝利です。
試合終了のタイミングで、得点の多いチームが勝者となります。また、相手チームとの得点差が10点になった時点で、試合終了となります。
前後半を終えて勝敗がつかない場合は、前半3分+後半3分、計6分の延長戦を行います。延長戦は先に得点した方が勝利となるゴールデンゴール方式です。それでも勝敗が決まらない場合は、1対1のゴール対決(エクストラスロー)で決着をつけます。
ゴールボールのペナルティールール
ゴールボールの勝敗には、ペナルティールールが大きく影響します。ペナルティが科せられた場合は、相手チームにペナルティスローが与えられるか、ボールの所有権が相手チームに移動するかのどちらかになります。ペナルティスローは幅9mのゴールに一人しか守備がつかないため、通常よりゴールを入れやすく、得点差に関わる可能性が高いのです。サッカーのPKをイメージしていただくと良いでしょう。
ペナルティスローになる反則
ペナルティスローとなるペナルティの種類はパーソナルペナルティとチームペナルティの2種類があり、パーソナルペナルティの場合はペナルティを科せられた選手が守備につき、チームペナルティの場合はペナルティを科せられたチームの中から1名が相手チームにより選ばれて守備につきます。
【パーソナルペナルティ】
◆反則となるスローイング
有効となるスローイングは、自分たちのチームエリアとコート中央のニュートラルエリアを最低一度ずつボールが触れた場合ですが、以下3つのスローイングは反則になります。
・ハイボール
チームエリアとニュートラルエリアの境目(ゴールから6m地点)に引かれているラインを、ハイボールラインと呼びます。スローイングの際はハイボールラインの上か手前でワンバウンドしなければならないため、バウンドせずにハイボールラインを越えた場合にペナルティが科せられます。
・ロングボール
投球されたボールの2回目のバウンドがニュートラルエリアの地面に触れることなく、相手チームのチームエリアまで超えた場合にロングボールとなり、ペナルティが科せられます。
・ショートボール
投球したボールが相手チームのチームエリアに届かなかった場合は、ショートボールの反則です。
◆スローイング以外の反則(パーソナルペナルティ)
・イリーガルディフェンス
守備側の選手がニュートラルエリアに出てボールを取った場合に、イリーガルディフェンスとなります。このとき、チームエリア内に少しでも身体が入っていれば、反則は取られません。
・アイシェード
試合中は、自分のアイシェードやほかの選手のアイシェードに触れることは禁止されています。
【チームペナルティ】
・テンセカンド
相手から投げ出されたボールは、選手が最初に触れてから10秒以内にセンターラインを越えるように返球するか、サイドラインの外に出さなければなりません。反則の際はペナルティスローとなります。
ただし、ニュートラルエリアからサイドラインの外に出た場合やセンターラインを越えてサイドラインの外に出た場合は相手ボールになります。
センターラインを越えずにコート外へ出た場合は、ボールがコートから出たサイドのゴールポスト前1.5mのオリエンテーションラインとサイドラインが交わる所にボールが戻され、プレイが再開されます。
パスを回す場合も、最初に選手がボールに触れてから10秒以内にセンターラインを越えるように投げ返す必要があります。
・イリーガルコーチング
ベンチにいる選手やコーチは、ハーフタイムやタイムアウトなど、ゲームタイマーが止まっているオフィシャルブレイク中にのみ、コート内の選手たちに声掛けができます。それ以外の時間に指示を出した場合は、チームペナルティが科せられます。
【パーソナルペナルティまたはチームペナルティ】
・ノイズ
攻撃の際、ボールを持っていない選手が音を出したり声を上げたりしてボールの位置を錯乱させることはルール上認められていますが、スローイングをする選手が投球動作に入る瞬間から、守備チームの不利となる音を出した場合はペナルティが科せられます。ノイズを出した個人が特定できた場合はパーソナルペナルティ、特定できなかった場合はチームペナルティが科せられます。
ボールの所有権が移る反則(インフラクション)
ペナルティスローの反則とは別に、ボールの所有権が移る反則があります。
・ボールオーバー
投球されたボールが守備側で跳ね返り、「センターライン」を越えた場合や、「ニュートラルエリアのサイドライン」を越えてコート外に出た場合は、攻撃側のボールとなります。
守備側で跳ね返るとは、守備をしている選手の身体に当たって跳ね返ってくる、または守備側のゴールポストまたはクロスバーに当たってラインを超えることを指します。なお、ゴールポストに当たる前に守備側の選手の身体に触れていた際は、触れてから10秒以内にボールが「センターライン」または「ニュートラルエリアのサイドライン」を越えていなければ「テンセカンド」のチームペナルティが科せられます。
・プリマチュアスロー
審判が「プレイ」をコールする前に投球した場合、反則となり守備側のボールになります。
・デッドボール
攻撃側が投げたボールが、守備チームの選手が触れる前に守備側のチームエリア内に止まった場合は、デッドボールです。審判がデッドボールをコールしてから、守備側のボールになります。
Quiet please!ゴールボール観戦のマナー
ゴールボールを試合会場で観戦する際は、気を付けたいマナーがあります。視覚を閉ざし、音などの情報を頼りに競技をするため、観客も協力する必要があるのです。
まず、審判から「お静かに!」を意味する「Quiet please!」のコールがあったら、観客は声や音を出さないようにします。ゴールが決まった瞬間は歓声をあげたくなりますが、得点獲得を意味する2回のホイッスルが鳴るまでは我慢しましょう。ホイッスルが鳴った後や、タイムアウト、ハーフタイムなどゲームが止まっている時間帯は、他の選手やコーチと一緒に声援を送ることができます。
ゴールボール観戦の見どころ
静寂の中で行われる音の駆け引き
ゴールボールは、感覚を研ぎ澄ませた選手たちの緻密な攻防戦です。まるで見えているかのように正確にボールをとらえ、かすかな音や息遣いから相手の動きを予測して動く様は圧巻です。試合中は、床をたたいたり声を出すなど、わざと音を出したり、逆に音がならないようにパスをしてボールの位置を錯乱させるなど、音の駆け引きも見どころです。
さらに、スローイングの際は時速60~70㎞になることもあります。その速球を全身で受け止め、素早く投げ返すパワフルなプレイも必見です。
タイムアウト後の協力プレイ
また、ゴールボールのポイントになるのがタイムアウトです。プレイ中、監督やコーチは声や音を出すことが禁止されていますが、タイムアウトの際には選手の目となり、相手チームの情報や戦術などを伝えます。タイムアウト直後のプレイは、監督やコーチからのアドバイスを受けて、大きく試合が動くことがあります。
ゴールボールでは、ベンチサイドとコート内の選手たちの協力プレイも見どころなのです。
ALSOKのスポーツ活動
ゴールボールは、全身の感覚を研ぎ澄ませながら重いボールを投げ合うスポーツのため、高度な精神力や集中力、体力が必要です。ALSOKのゴールボール部では、選手が日々精力的にトレーニングを行い、国際大会や国内の競技大会で結果を残しています。競技を楽しみながら勝利を目指してプレイするゴールボールの選手に、ぜひご声援をお願いします。
まとめ
「静寂の格闘技」と呼ばれる、静かな空間の中でパワフルな攻防が楽しめるゴールボール。テレビの前で観戦する場合は、ぜひベンチの選手やコーチたちと一緒になって、静寂の中で選手たちを見守ってみてください。ゴールボールのルールを知っておくと、より一層その場で観戦しているかのような臨場感を得ることができますよ。