介護保険とは?【前編】介護保険制度の仕組みをわかりやすく解説
日本では、40歳以上の国民に対し介護保険が用意されています。すでに加入している方も多いと思いますが、介護に直面したことがまだないなどでその内容を漠然としか把握していない場合もあるでしょう。
そこでこの記事では、日本の公的介護保険制度の仕組みについてわかりやすくご紹介します。
介護保険とは?
実際に介護の当事者となっていない方のなかには、介護保険制度に関して詳細をご存じない方もいるかもしれません。
ここでは、介護保険制度の概要についてご紹介します。
介護保険制度の概要
介護保険制度は、健康保険などと同様に国民全員を対象とした保険制度です。「被保険者が満40歳に達したとき」から、保険料を支払う義務が発生します。保険料を納めることで、介護が必要と認定されたときから介護サービスの利用が可能となります。
介護保険制度は、65歳以上の方が「第1号被保険者」に、40歳以上65歳未満で健康保険(組合健康保険、協会健康保険、国民健康保険)に加入している方が「第2号被保険者」に細分化されます。
65歳以上の第1号被保険者の方は、要支援または要介護の状態になると介護サービスを受けることができます。第2号被保険者の方も、加齢に伴う特定疾病が原因で介護が必要になると、介護サービスを受けられます。
被保険者は、市区町村に対して保険料の納付を行い、介護が必要になった際に介護認定を申請します。市区町村から要支援/要介護認定の決定を通知された後、介護サービスの提供事業者と契約を締結します。被保険者は自己負担分をサービス提供事業者に支払い、事業者は残りのサービス利用料を市区町村に請求するという仕組みができているのです。
自己負担の割合は?
介護保険を利用して介護サービスを受ける場合、被保険者には一定の自己負担分が課されます。
被保険者が介護サービスを受けた場合に負担すべき自己負担の割合は、「原則として1割」です。ただし、所得が一定額を超える被保険者は2割負担・3割負担となる場合もあります。
被保険者の自己負担が不要となる残り9割(または8割、7割)のうち、半額が公費による負担となります。もう半額は、第1号被保険者および第2号被保険者が納めている介護保険料から支払われることとなります。
公的介護保険と民間介護保険の違い
介護保険は、厚生労働省によって設けられた公的な介護保険制度を指す場合が一般的です。しかし民間の保険会社からも、介護に関するさまざまな保険商品が提供されています。
ここでは、国が設ける公的介護保険と、民間保険会社の民間介護保険との違いについてご紹介します。
公的介護保険と民間介護保険のおもな違い | |||
---|---|---|---|
公的介護保険 | 民間介護保険 | ||
第1号被保険者 | 第2号被保険者 | ||
加入の要件 | 65歳以上の全国民(加入義務あり) | 40歳から64歳までの健康保険加入者(加入義務あり) | 保険会社の規定による(加入義務なし) |
対象者 | 自治体が認定する要介護者すべて | 特定疾病で介護認定を受けた人 | 被保険者すべて |
利用の条件 | 要支援・要介護の程度に応じてサービスや利用金額が決まる | 特定疾病で要支援・要介護となった場合 | 公的介護保険に準じる場合が多いが、基本的には保険会社の規定による |
保障内容 | 介護保険法に則って介護サービスの利用が可能 | 一時金や年金など現金支給の形が一般的 | |
加入手続き | 手続き不要(強制加入) | 保険会社 |
※特定疾病につきましては下記に説明がございます。
公的介護保険
【加入について】
第1号被保険者は65歳以上、第2号被保険者は40歳以上で自動的に加入となる
【介護サービスを受けるには】
自治体より要支援または要介護の認定を受ける必要がある
【要支援/要介護の申請から認定までの期間】
約1か月が目安
【保険によって保障されること】
介護サービスを自己負担額1割~3割で受けること(受給)ができる
民間介護保険
【加入について】
加入を希望する方の任意による加入
【保険の適用について】
各保険会社が設けている要件に該当した場合に適用される
【保険適用の申請から受給までの期間】
各保険会社によって異なる期間となる
【保険によって保障されること】
多くの場合一時金や、定期支給される年金の形での給付
特定疾病とは
第2号被保険者は、主治医による診断により加齢に伴う以下16種類の「特定疾病」と判断され、自治体により要支援/要介護認定を受けた場合に限り、保障(介護サービス)を受けることができます。
特定疾病とは、一般的に65歳以上に多く発症する病気のことを指しますが、40歳以上65歳未満の年齢層でも発症が認められており、一時的に疾病を患っている方の割合(罹患率)や一定期間にどのくらい疾病者が発生したかを示す指標(有病率)が加齢と関係している16種類の病気を指します。
特定疾病の種類については、介護保険制度における要介護認定の際に運用しやすくするため、個別疾病名を列記されています。(介護保険施行令第二条)
以下が16種類の特定疾病です。
【特定疾病の種類】
・がん
医師が一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがない状態と判断した場合に限られます。
・関節リウマチ
関節内に炎症が生じ、痛みやこわばりが現れる状態を指します。
・筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう、ALS)
手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が徐々に痩せていき、力が弱くなっていく病気のことをいいます。筋肉そのものに作用するわけではなく運動をつかさどる神経が障害をうけるため、視力や聴力などの機能は保たれていることが一般的です。
・後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう、OPLL)
背中の中を縦に走る後縦靭帯が骨化し、脊髄の通り道である脊髄管を圧迫することにより感覚障害や運動障害等の神経症状が引き起こる病気のことを指します。
・骨折をともなう骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
骨粗鬆症とは、骨の量が減り弱くなることで骨折しやすくなる病気のことを指します。ここでは、骨折を伴う状態のことをいいます。
・初老期(45~65歳)における認知症
脳の病気や障害などさまざまな原因によって認知機能が低下し、物忘れ、お金の勘定ができなくなる、慣れた道に迷う、など日常生活に支障をきたす病気のことを指します。初老期に発症する認知症の代表的な例として、アルツハイマー型認知症、血管性認知症などがあります。
・進行性核上性麻痺(しんこうせいかくじょうせいまひ)、パーキンソン病、大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう)
進行性核上性麻痺は、脳の神経細胞が減少し、転びやすくなったり、下を向くことが難しかったりする状態などを指します。
パーキンソン病は、手・足などの震えやこわばり、動作が遅くなる、歩行困難な状態などを指します。
大脳皮質基底核変性症は、パーキンソン症状に加え、手が不自由、動作がぎこちないなどの状態が同時にみられることを指します。
・脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)
歩行時のふらつき、手の震え、呂律が回らないといった症状を引き起こし、身体を思い通りに動かすことが難しいといった状態を指します。
・脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)
脊柱にある脊柱管が狭くなり、痛みやしびれ、足に力が入らないなどの状態を引き起こす病気のことを指します。
・早老症
早く老いる病気のことをいいます。白髪、脱毛、手足の筋肉の減少など、思春期を過ぎる段階から急速に老化が進んでいくように見える状態のことを指します。
・多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう、MSA)
立って歩くときのふらつきや動作が遅くなる・手足がこわばるなどの症状がみられる状態のことを指します。
・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症
糖尿病が原因で起こる合併症のことをいいます。足のしびれや痛み、高血圧やむくみが現れる腎機能の障害、網膜の血流障害によって視力が低下する状態などのことを指します。
・脳血管疾患
脳の血管のトラブルにより引き起こされる病気を指します。代表的なものは、くも膜下出血、脳梗塞などがあります。
・閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)
足の血液の流れが悪くなり、歩行時に足のしびれ、痛み、冷たさを感じる状態のことを指します。
・慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん、COPD)
タバコ煙を主とする有害物質の長期吸入によって肺の中の気管支に炎症がおき、息切れや長く続く咳と痰(たん)を特徴とする病気のことを指します。
・両側の膝関節または股関節に著しい変形をともなう変形性関節症
両足の膝関節・股関節が著しく変形し、痛みを伴い日常生活などの活動に制限が生じる状態を指します。
介護サービスを受けることができる被保険者
ここからは、公的介護保険において被保険者が介護サービスを受給するための要件や要支援/要介護認定の種類についてご説明します。
公的介護保険の認定要件
公的介護保険によって介護サービスを受けるためには、お住まいの自治体(市区町村)への申請が必要です。その上で自治体による「要支援/要介護認定」の判定を受けることで、介護保険の利用が可能となります。
要支援/要介護認定の種類
要支援/要介護認定の段階基準は、以下の表にある「要介護認定等基準時間」と心身の状態に沿って判定されます。
要支援1 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり25~32分、またはそれに相当すると認められる |
---|---|---|
心身の状態(目安) | 立ち座りに補助が必要で、住居や身の回りの管理に一部手助けが必要。食事や排せつは自力で行える | |
要支援2 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり32~50分、またはそれに相当すると認められる |
心身の状態(目安) | 住居や身辺の管理に、何らかの介助が必要。立ち座りや片足立ちは支えがないと行えないが、食事や排せつは自力で行える | |
要介護1 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり32~50分、またはそれに相当すると認められる |
心身の状態(目安) | 要支援2の状況に加え、精神的な混乱や理解度の低下がみられる状態。食事や排せつはほぼ自力で行える | |
要介護2 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり50~70分、またはそれに相当すると認められる |
心身の状態(目安) | 要介護1の状況に加え、食事や排せつの際に何らかの介助を必要とすることがある | |
要介護3 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり70~90分、またはそれに相当すると認められる |
心身の状態(目安) | 身の回りの管理、立ち座りや片足立ちが自分1人では行えず、両足立ちや歩行も自分1人ではできない場合がある。介助なしでの排せつが行えず、全般的に理解度が低下し不安行動などがみられる状態 | |
要介護4 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり90~110分、またはそれに相当すると認められる |
心身の状態(目安) | 身の回りの管理、立ち座りや片足立ちが自分1人ではほとんどできず、両足立ちや歩行も自分1人で行えない。排せつはほとんど自分では行えず、不安行動が多くなり全般的な理解度の低下もみられる場合がある | |
要介護5 | 要介護認定等基準時間 | 介護に必要な時間が一日あたり110分以上、またはそれに相当すると認められる |
心身の状態(目安) | 身辺の管理や立ち座り、片足立ちや両足立ち、歩行がまったく行えず、ほぼ寝たきりの状態。排せつや食事も自力で行うことができず、全般的な理解度低下や不安行動がみられる場合がある |
要介護認定等基準時間は介護に要する時間を分単位で表したもので、あくまで介護がどのくらい必要かを量るものさしであり、受けられる介護サービスの合計時間とイコールになるという意味ではありません。
基準時間と心身の状態を総合的に判断し一次判定の要支援度・要介護度が決定されます。
介護サービスの利用までの流れ
実際に被保険者の方が介護を要するとみられる状態になった場合、要支援/要介護認定の申請や手続きをする必要があります。ここでは、介護サービス利用までの一連の流れをご紹介します。
1.申請
お住まいの自治体(市区町村)の窓口で、要支援/要介護認定の申請を行います。申請を行うと自治体の担当者による自宅訪問があり、聞き取り調査が実施されます。それと並行し、自治体から被保険者の主治医に「主治医意見書」の作成が依頼されます。もし被保険者に主治医がいない場合は、医療機関を新規受診して主治医を決定、意見書の作成を依頼しましょう。
2.要支援/要介護認定の調査、判定
市町村の認定調査員による訪問調査(心身の状況調査)の結果や主治医意見書の内容に基づき、コンピュータで一次判定を行います。その結果や、介護認定審査会の主治医意見書確認による二次判定がさらに行われ、被保険者の要支援/要介護度が自治体によって決定されます。
3.認定結果が通知
正式な認定結果が、被保険者へ通知されます。もしこの段階で要支援/要介護認定を受けられなかった場合も、地域支援事業などの支援サービスを利用できる可能性があります。地域支援事業は被保険者が要支援/要介護認定状態になることを予防し、社会に参加し自立した日常生活を営むことを支援する目的があります。地域支援事業の実施内容は自治体によって異なるため、どのような事業を実施しているかを確認しましょう。
このため非認定を受けた方も、自治体や地域包括支援センターへ相談することをおすすめします。
4.ケアプランの作成
要支援度/要介護度の決定後は、被保険者が受けるべき介護サービスの内容や、被保険者に適したサービスの選定などに関する計画書「ケアプラン」が作成されます。要支援者のケアプランは地域包括支援センターの担当職員が作成し、要介護者のケアプランは利用する介護支援事業所や施設のケアマネージャーが作成します。
5.サービスを利用
作成されたケアプランに応じて、介護/支援サービスの利用を開始できます。
ALSOKの介護
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まとめ
介護保険はどのような保険制度であり、どのようにして利用できるかが、この記事でおおまかに把握できたかと思います。後編では、介護保険における要支援/要介護認定や、介護保険で利用できるサービスに関する詳細を紹介しています。後編も、続けてぜひご覧ください。