葬儀における湯灌とは?「湯灌の儀」の流れや立ち会い時の服装、マナーについて

高齢者・介護 2024.12.19
湯灌する葬儀スタッフ

日常ではあまり聞き慣れない言葉ですが、湯灌(ゆかん)は葬儀において昔から行われている故人の身体を清める儀式です。近年では湯灌を行わないこともあるため、親や家族が亡くなった場合、湯灌を行うべきかどうか迷う方もいるでしょう。湯灌の目的や必要性、湯灌に立ち会う場合の服装やマナーについて知っておくと判断に役立つかもしれません。
本記事では、湯灌の目的や湯灌の儀・納棺の流れ、湯灌に立ち会う際の服装や費用相場などをご紹介します。

目次

湯灌(ゆかん)とは?

湯灌とは、納棺前に湯船やシャワーを使って故人の身体を洗い清める儀式のことを指します。亡くなった方の人生を思い、来世への準備を整える大切な儀式であり、遺族にとっても気持ちの整理と別れの儀式として重要な意味合いをもっています。

昔は主に家族や親族が行うものでしたが、精神的な負担、専用の浴槽が必要であることや衛生面での配慮から、現在では葬儀社が執り行い、遺族はその過程に立ち会うやり方が一般的になりました。湯灌を行う場所は故人の自宅だけでなく、設備の整った葬儀場で行われることもあります。
湯灌には他に、アルコール綿などを使用してご遺体を拭いて清める「古式湯灌」もありますが、こちらは一般的に「清拭」(せいしき)と呼ばれています。

湯灌の目的

故人を清潔にして整える

人は亡くなると、見た目の変化が徐々に現れ、皮膚の色が変わり、体液なども出てきてしまいます。湯灌にはご遺体の衛生状態を保ち、死後硬直を和らげる効果があるとされています。
湯灌によって表情や髪型など外見上の美しさを保ち、故人の尊厳を守ることができます。

安らかな成仏を願い現世の穢れを洗い流す

湯灌を行う目的のひとつとして、現世の穢れを洗い流し、安らかな成仏を願うことも挙げられます。俗世の垢を落とすことで、きれいな姿で極楽浄土へ向かうことができるという考え方です。また、湯灌は仏教の高僧が行った行為であり、徳があるとされています。

故人への感謝や労いの気持ちをあらわす

湯灌は故人の全身を清めるため、所要時間は1時間~1時間半ほどかかります。
お別れのタイミングで故人の身体を丁寧に清めることで、生前の感謝の念と別れの悲しみを表現できます。また、湯灌を通じて故人との最後のコミュニケーションをとることで、遺族も気持ちの整理をつけることができます。

湯灌はしなくても良い?湯灌の必要性とは

多くの場合、葬儀社の基本的なプランに湯灌は含まれていません。
オプションで依頼できるので、故人の身体をきれいにしてあげたいと思ったら相談してみるといいでしょう。
近年は病院で亡くなる方も多く、その場合は病院でエンゼルケアが施されます。
エンゼルケアとは、死後に身体の処置や保清、メイクを施し、ご遺体をきれいに整えるケアのことです。介護施設で亡くなった場合もエンゼルケアが施されることが多いため、必ずしも湯灌をする必要はありません。
また、湯灌には宗教的な側面もありますが、仏教だけでなく神道やキリスト教の葬儀でも行うことができます。湯灌という儀式を通じて、家族が故人に向き合う時間をもてることが大切であり、宗教・宗派を問わず遺族や故人の遺志が尊重されます。
ただ、湯灌を行うには追加費用がかかることが多く、湯灌をしないという選択をする方もいます。家族や故人の希望、費用などを考慮して、話し合って決めるのが良いでしょう。

湯灌の儀・納棺の流れ

納棺

では、実際の湯灌の儀と納棺はどのように行われるのでしょうか。
納棺は、一般的にご遺体の安置後からお通夜の前までに執り行われます。本来は自宅で行われていましたが、最近では亡くなられた後自宅に戻らないケースも増え、葬儀場で執り行われることも多くなりました。

末期(まつご)の水

末期の水とは、故人の口元に水を含ませる儀式です。「死に水を取る」ともいわれ、喪主を筆頭に故人と血縁が近い方から順に、箸の先に付けた脱脂綿や筆などに水を含ませ、故人の口元を湿らせます。末期の水の由来はお釈迦様が亡くなる前に水を欲したことに由来しており、故人の喉の渇きを防ぐという意味合いがあります。ただし、宗派や地域によっては行わないこともあるので、事前に確認しましょう。

湯灌の儀

湯灌の儀は、自宅や葬儀場で行います。自宅で行う場合、自宅の浴槽ではなく移動式の専用の浴槽を使うため、ある程度のスペースがあれば湯灌を行うことが可能です。湯灌は次のような手順で行われます。

  • 湯を溜めている間に、身体の硬直をほぐすためご遺体のマッサージを行う。
  • 湯を溜めた浴槽に移動し、ご遺体の肌が見えないように布やタオルをかける。
  • 湯灌師が流れについて説明(口上)する。
  • 逆さ水の儀を行う。

逆さ水とは、ぬるま湯を作る際に通常の手順とは反対の手順で作る方法です。水を張ったところにお湯を足して適温にします。通常のお風呂よりぬるめの温度にすることが多く、左手で柄杓(ひしゃく)を持ち、足元から頭に向かい、少しずつお湯をかけていきます。逆さ水の儀は遺族も参加できますが、宗派や地域によっては行わないこともあります。

  • 湯灌師など専門のスタッフが洗髪・洗顔をし、ドライヤーで髪の毛を乾かす。また、顔剃り(髭剃り)も行う。
  • 最後に全身をシャワーで洗い、くまなく拭きあげる。

死装束への着替えと死化粧を施す

死化粧する葬儀スタッフ

死装束(しにしょうぞく)とは、納棺時に故人が着用する衣装を指します。白い経帷子(きょうかたびら・修行僧の服)のイメージがありますが、宗派によって異なります。
一般的な仏式では、笠や足袋、草鞋などの極楽浄土への旅支度、三途の川を渡るための六文銭を表す紙が入った頭陀袋(ずだぶくろ)、杖を身に付けます。エンディングドレスやスーツ、私服など、故人が生前に好んでいた服を着せることも可能です。

ご遺体を棺に納め、副葬品を入れる

ご遺体を棺に納めた後、その周りに故人が大切にしていたものなどを副葬品として納めます。副葬品は、手紙や寄せ書き、お菓子、果物、人形、煙草、洋服・和服を入れることが多いです。
メガネ、入れ歯、指輪などの金属が含まれているもの、ビン・缶などの飲料、硬貨など燃えないものや危険なものは棺に入れられません。また、分厚い本や大量の千羽鶴なども燃えにくい可能性があり、断られる場合があります。
ご存命の方が写っている写真も、あの世へ引き込まれるという迷信があるため好ましくありません。また、故人がペースメーカーを入れていた場合は、爆発する危険があるため、必ず葬儀社のスタッフへ申告しましょう。

湯灌に立ち会う際の服装・マナー

喪服

湯灌の際は平服で問題ありません。ここで言う平服(略礼服)とは、普段着ではなく正装よりもやや簡略的な軽装のことです。具体的には、男性の場合はブラックスーツやダークスーツなど、女性の場合はカジュアル過ぎない黒系のワンピースなどが該当します。光沢感のない服装を選びましょう。
湯灌の儀の後すぐにお通夜に参列される場合は、喪服を着用して立ち会うと良いでしょう。また、自宅ではなく葬儀場で行われる場合は喪服を着用しましょう。

湯灌に立ち会う際のマナー

湯灌中、故人は裸の状態になるため、湯灌に立ち会えるのは基本的には遺族、親族のみです。遺族、親族以外の人が湯灌の参加を希望された場合、マナーとしては断っても問題ありません。また、親族でも立ち合いは必須ではなく、湯灌師に全てを任せるケースもあります。
湯灌が行われている途中で席を立ったり、参加自体を断ったりしても問題ありません。精神的につらいと感じる人もいるため、参加を強いることは止めましょう。
途中参加も問題ありません。湯灌には細かい手順があるため、幼い子どもを同席させる場合には、邪魔にならないようにしましょう。

湯灌の費用

湯灌は葬儀の必須の儀式ではないため、基本費用には含まれておらず、オプションとなる場合がほとんどです。湯灌の種類によって値段は異なりますが、相場は5万円~10万円程度と考えて良いでしょう。
入浴をせずに、アルコール綿などによる清拭と身支度だけを行う古式湯灌の場合は5万円前後が目安です。湯船やシャワーでご遺体を洗い清める湯灌は10万円程度が相場となっています。
なお、近年では湯灌に対応していない葬儀社もあるため、可能かどうか事前に確認が必要です。移動式バスタブなどの費用が追加でかかる場合もあり、湯灌を希望する場合は早めに葬儀社のスタッフにその旨を伝え、見積もってもらいましょう。

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まとめ

湯灌は故人への感謝や労いの気持ちをあらわす儀式であり、ご遺族の感情を整理する大切な時間でもあります。
近年では行わない場合もありますが、ご遺族や故人の意向、費用を考慮して検討すると良いでしょう。湯灌の儀式に参加する場合は、故人が安らかに旅立てるよう、気持ちを込めて立ち会いましょう。

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