胃ろうとは?家族が介護するときに気を付けるポイントや胃ろうのメリット・デメリットを解説
胃ろうとは、手術で腹部に小さな穴を開け、カテーテルを通して胃に栄養を直接注入する医療措置です。入浴や嚥下訓練も可能で、目立ちにくいというメリットがあります。ただし、カテーテルが抜けた場合は再手術が必要です。また、胃ろうにより皮膚がただれる可能性もあります。
当記事では、胃ろうの種類やメリット・デメリットを解説します。胃ろうの人を自宅で介護する際の注意点やポイントも解説するため、ぜひ参考にしてください。
目次
胃ろうとは
胃ろうとは、どのような医療措置なのでしょうか。ここでは、胃ろうの概要と対象になる人について解説します。
胃ろうとは
胃ろうとは、腹部にカテーテルを通すために手術を受け、そのカテーテルを通して胃に栄養を注入する医療措置です。胃ろうのために腹部に穴を開ける手術は「経皮内視鏡的胃瘻造設術」とよばれており、PEGと表現される場合もあります。PEGは「Percutaneous Endoscopic Gastrostomy」の略です。
胃ろうの対象となる人
口からの栄養摂取が難しい人は、胃ろうの対象となります。食べ物を飲み込む際にむせやすく、嚥下障害により誤嚥性肺炎を引き起こしやすい人も胃ろうの対象です。「嚥下(えんげ)」とは、食べ物を口から胃へ送ることを表しています。「誤嚥(ごえん)」とは、食べ物を飲み込むときに誤って気管に入ることです。
また、胃ろうは、消化管手術や消化管疾患の治療の一環として活用される場合もあります。
胃ろうの費用
胃ろうの手術には保険が適用されます。また胃ろうでは栄養剤が必須ですが、栄養剤のほとんどは医薬品として扱われているため、保険の対象です。
また、定期的なメンテナンスにおいても保険を利用できます。バルーン型の場合、8,000円が月1回程度の頻度でかかります。また、バンパー型の場合、約2万円の材料費が6か月に1回程度の頻度で必要です。保険の適用により、利用者の負担は1~3割となります。
カテーテルの種類
胃ろうのカテーテルには、体外部に使用するものと胃内部に使用するものがあります。ここでは、カテーテルの種類について解説します。
体外部に使用するもの
体外部に使用するカテーテルには、ボタン型とチューブ型があります。
ボタン型は、見た目がボタンのようになっていて、体外にチューブが出ていません。チューブが短いため汚れがつきにくく、掃除が簡単です。
対してチューブ型は、体外に長いチューブが出ているのが特徴です。チューブを接続しやすいものの、内側の掃除に手間がかかります。
胃内部に使用するもの
胃内部に使用するカテーテルには、バンパー型とバルーン型があります。
バンパー型は、胃の内壁に固定します。抜けにくく、交換の頻度は半年に1回程度です。ただし、交換の際に違和感や痛みが生じる場合があります。
バルーン型は、バルーンを胃に挿入後、蒸留水で膨らませて固定します。痛みをあまり感じない人が多いです。交換が簡単ではあるものの、1~2か月に1回と高頻度での交換が必要です。
胃ろうのメリット
胃ろうには、さまざまなメリットがあります。以下で詳しく解説します。
違和感や不快感をおぼえにくい
胃ろうは、経鼻経管と比較して痛みや違和感が少ないです。胃に直接栄養を注入する方法であり、鼻や喉にチューブを通す必要がないためです。少ない負担で体に必要な栄養を摂取できます。
カテーテルを引き抜く心配が減らせる
胃ろうは腹部にあるため、自分でカテーテルを引き抜いてしまう心配も減らせます。経鼻経管の場合、鼻や喉にチューブがある不快感により、自分でカテーテルを引き抜いてしまうケースも少なくありません。特に、認知症やせん妄状態の方は自分でカテーテルを引き抜いてしまう可能性が高いため、胃ろうのほうが安心です。
目立たない
胃ろうは、服を着れば外部からは目立ちません。そのため、心理的な負担を感じず気軽に外出できるでしょう。また、胃ろうのために作られたベルトやポーチも販売されており、そのようなアイテムを使用するとさらに胃ろうが目立たなくなります。周りの目を気にしたくないという人にも、胃ろうが向いています。
誤嚥の危険性を減らせる
胃ろうの手術をすれば、嚥下障害による誤嚥性肺炎のリスクも減らすことが可能です。誤嚥性肺炎には、「化学性肺炎」と「細菌性肺炎」があります。「科学性肺炎」は食べ物や嘔吐物の誤嚥によって発生し、「細菌性肺炎」は、細菌が原因で引き起こされる肺炎です。胃ろうは「化学性肺炎」の防止になる点もメリットです。
口から食事ができる
胃ろうの人は、胃につないだチューブから栄養を摂取するだけでなく、口からの食事も行えます。喉や食道にカテーテルが通っていないからです。口から食べたものが胃に開いた穴から出る心配もありません。また、胃ろうの手術を受けた後も嚥下訓練や言語訓練が可能です。
入浴ができる
胃ろうの人は、入浴もできます。特別な処置は必要なく、手術前と同様の方法で入浴が可能です。胃ろうの部分を保護する手間がかからないため、介護者の負担も増えません。胃ろうの人が入浴する際は、カテーテルもきれいに洗うと皮膚トラブルの防止につながります。
胃ろうのデメリット
胃ろうには、デメリットもあります。具体的にどのようなデメリットがあるか解説します。
手術が必要
胃ろうで胃から直接栄養を注入するには、手術が必要です。手術は内視鏡により短時間で済むものの、体に穴が空くことに抵抗を感じる人も少なくありません。また、一度手術を受けても、カテーテルが抜けた場合は再び手術が必要となります。胃に開けた穴からカテーテルが抜けると、一晩で穴がふさがってしまいます。
メンテナンスが必要
胃ろうは、定期的なメンテナンスも必須です。カテーテルの交換に毎回費用がかかります。メンテナンスの頻度は、カテーテルの種類によってさまざまです。たとえば、バンパー型は比較的長期の使用が可能ですが、それでも半年に1回程度の頻度でカテーテルを交換する必要があります。
口腔ケアが必要
胃ろうの人は、口腔ケアも重要です。食べ物を口から摂取する頻度が減ると、唾液の分泌量も減り、自浄作用が低下するからです。口腔内に汚れがつきやすくなり、細菌が増加して口臭の原因になります。また、細菌性肺炎のリスクも高まるため注意が必要です。
胃ろうのメリット・デメリットをまとめると、以下の通りです。
メリット | デメリット |
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自宅で胃ろうの人を介護するときのポイント
自宅で胃ろうの人を介護する場合は、さまざまなことを意識する必要があります。以下でポイントを解説します。
体を起こして姿勢を正す
胃ろうの人の介護では、体を起こして姿勢を正す必要があります。体を起こさずに栄養剤を注入すれば逆流する可能性があるため、要注意です。上体の角度が、30〜45度以上になるよう調整しましょう。また、栄養剤の逆流を防ぐため、注入後30分から1時間程度は体を寝かせずそのままの状態を維持してください。
皮膚トラブルに注意する
胃ろうについては、皮膚トラブルに注意が必要です。胃ろうの周辺のケアを怠った場合、皮膚が赤くなったり、腫れたりする恐れがあります。胃ろうの周辺は、常に清潔に保つことが大切です。また、体だけでなく、胃ろうの器具の衛生管理にも配慮する必要があります。
栄養剤の選び方を覚える
胃ろうで使用する栄養剤の種類としては、「成分栄養剤」、「消化態栄養剤」、「半消化態栄養剤」があります。
「成分栄養剤」は、窒素源がアミノ酸のみで消化の過程が必要ない栄養剤です。含まれる脂肪の量が少ないため、長期利用の場合は、脂肪乳剤の併用が必要です。また、浸透圧が高いため、投与速度に注意が必要な点もデメリットといえるでしょう。
「消化態栄養剤」も消化の過程が必要ない栄養剤であり、窒素源はアミノ酸と低分子のペプチドとなっています。消化が必要ないため、栄養分のほとんどを吸収できるメリットがあります。しかし、糖や脂肪が残る点はデメリットといえます。商品により、窒素源や三大栄養素の配合比率、濃度などが異なるため、注意が必要です。
「半消化態栄養剤」は窒素源がタンパク質であり、消化が必要です。食品に分類される製品にはさまざまな種類があり、ニーズに合わせた栄養剤の選択ができるメリットがあります。しかし、胃の機能が低下している場合には、逆流や誤嚥のリスクがある点はデメリットであるといえます。
それぞれの方の状態に合わせて適切な栄養剤を選びましょう。
自宅で胃ろうの人を介護するときの注意点
自宅で胃ろうの人を介護する場合、気をつけたいことがあります。具体的な注意点について解説します。
皮膚トラブルが重症化したら医師に相談する
胃ろうの人は、皮膚にストッパーが埋まったり、粘膜が赤く盛り上がったように見える「肉芽(にくげ)」ができたりする場合もあります。皮膚トラブルが発生しやすいため、胃ろうの周辺の皮膚を毎日チェックし、炎症や感染の兆候などが現れていないか確認しましょう。赤くただれていたり、水っぽい分泌物が出ていたりする場合は、早めに医師に相談する必要があります。
カテーテルが抜けたときは、医師に連絡する
胃ろうの人も、カテーテルを自分で抜いてしまう可能性は、ゼロではありません。また、バルーン型では、バルーンの破裂や固定水の漏れなどが原因でバルーンがしぼみ、カテーテルが抜けてしまう場合もあります。カテーテルが抜けるとお腹に開けた穴がすぐにふさがってしまうため、早急に医師に連絡して対応を相談しましょう。
胃ろうの人が施設に入るときのポイント
胃ろうの人が施設に入る際は、事前に知っておきたいことがあります。具体的なポイントを解説します。
施設入居が難しい場合もある
胃ろうは医療行為とみなされており、施設の職員が誰でも対応できるわけではありません。胃ろうには、所定の研修を受けた介護職員だけが対応可能です。よって、資格を持っている介護職員がいない施設や、看護師が24時間常駐していない施設などでは、胃ろうの対応が難しい可能性があります。
事前に施設の対応を確認しておく
すでに解説した通り、胃ろうの人が入居できない施設もあります。施設を選ぶ際は、胃ろうに対応可能かどうか事前に把握しておきましょう。胃ろうの人は、たんの吸引も必須であるため、その点についても確認が必要です。嚥下のリハビリが必要なら、専門的なリハビリに対応できるかについてもチェックする必要があります。
ALSOKのみまもりサポート
胃ろうの人は、介護施設に入れない場合もあります。自宅での介護も可能ですが、自分で抜いてしまう心配もあります。自宅で介護するなら、ALSOKのみまもりサポートの利用がおすすめです。ALSOKのみまもりサポートは、ボタンを押すだけでプロのガードマンが駆けつけ、あらかじめご登録いただいた持病やかかりつけ医を救急隊員にお伝えするので安心です。
また、ALSOKでは在宅介護サービスもありますので、介護される方の負担軽減にも役立ちます。
まとめ
胃ろうは、腹部に穴を空けて栄養を直接注入する医療措置です。負担や痛みは少ないですが、カテーテルの自己抜去や皮膚トラブルなどには、注意する必要があります。また、すべての介護施設が胃ろうの人に対応できるわけではありません。自宅で介護する場合は、さまざまな配慮が必要なため、事前に下調べしてから取り掛かりましょう。