ずっと、手紙愛好家
鈴木さちこ
「あ、郵便屋さんだ」。日々の生活で私がときめくのは、郵便配達のバイクの音だ。郵便受けに手紙を入れるときに止まり、ちょっと走って、また止まる。そのエンジン音のリズムは今も昔も変わらない。だんだんと音が近づいた後、遠ざかるのを確認してから、私はすぐに郵便受けをのぞく。外の空気をうっすらまとった手紙。ダイレクトメールでもいいから、自分宛てのものがあると嬉しい。特別な手紙があるなら、なおさら嬉しい。
なぜか子供の頃、仲良しの友達が転校してしまうことが多かった。そんなときは決まって文通をした。「遊びに来てね」「絶対行くよ」。最初はスムーズにやりとりするものの、そのうち相手から手紙が来なくなり、自然消滅した。新しい学校が楽しくなったのなら良かったと子供なりに悟り、諦めたものだ。会話が途中で終わってしまった手紙たちを、未だに保存してある。時を経て、切ない想いは美しく風化する。形として残るからこそ、
大切にしたいことがある。
季節感を意識しつつ相手のイメージに合わせて、便箋と封筒、切手を選ぶ。お気に入りのペンで、思いつくままに言葉を紡いでいく。手紙の良いところは相手に伝えるために、今の自分の気持ちを活字化して整理できることだ。たとえ何か悩みが解決していないにしても書き終わった後、すっきりとした気分になる。ポストに投函して、返事が来るのを待つ。もしかしたら来ないかもしれない。この淡い期待を抱いている時間が、好きだ。返事を急かすことも急かされることもなく、日常はゆっくりと流れる。
忘れかけた頃に手紙は届く。切手に描かれた電車に気がつき、思わずニヤリとする。私の好みをわかっている、この人は。封を開けると友の土地の空気が漏れる。便箋には、相変わらず綺麗な懐かしい字。私だけに向けられた言葉を一つ一つ丁寧に読む。すぐにでも返事を書きたいけど、もう少し時間を置こう。春の新しい切手を買いに郵便局へ行ってみようか。やっぱり、手紙っていいな。
すずき・さちこ
1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。