Always Essay 初めての・・・ 2.キラキラ

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Always Essay 初めての・・・

2.キラキラ

小栗左多里

27歳の夏、私はとにかく寝ていなかった。「漫画大賞」に応募する漫画を描いていたからだ。漫画を描くのは、人生で3回目。1回目は美大の卒業前で、話を作るのも絵も難しすぎて完成できなかった。美大とはいえ、漫画の技術はまったく別物なのだ。2回目は25歳。自分の絵の古さに焦って、オシャレな漫画を見つめながら描いたものの、結果はデビューできる一つ下の「努力賞」。
そして気づけば27歳。当時としては震えるほど遅い。そんな背水の陣で挑んだ3回目。相変わらず脳内にあるものをこの世に現すのはとても難しく、30ページが全然終わらない。最後の方は1日1~2時間しか寝なくなった。そのうち、紙に3つくらい点があると、それが顔に見えるようになった。たいていムンクの「叫び」か死神みたいな、ハッピーとは程遠いものである。そして瞬きした瞬間に、なぜか故郷や近所の何気ない道が脳裏に浮かんだりもした。瞬間といっても3秒とか、もしかして10分だったのかもしれない。ずっと一人だったし、記憶も曖昧だ。締切日がきても終わらなかったので、ますます寝なくなった。出来上がったのは1週間後。遅れたけど絶対に読んでもらえると信じて、郵便局から送った。よく晴れた朝だった。
部屋に戻ってくると突然、空気が輝き始めた。空間にある粒子が小さな火花みたいに、キラキラしだしたのだ。ホコリが太陽光で反射してるのかな?と思ったけど、すごい密度で、どう見てもそれ自身が発光している。きっと目の使いすぎで何かがおかしくなっていたのだろう。キラキラに埋め尽くされた世界はとても綺麗だった。美しすぎて「ああ私、もうすぐ死ぬのかな」と思った。その瞬間に寝た。死ななかった。お昼に起きたら、もう光っていなかった。その時の作品が佳作に入り、次の夏にデビューした。 
あの輝いていた空間を、時々思い出す。天国に似ていたのか、いつかわかる日がくるだろうか。

おぐり・さおり

岐阜県出身の漫画家。
著書に「ダーリンは外国人」「フランスで大の字」など。
近著「ダーリンの東京散歩 歩く世界」「手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん」。
2012~2019年までドイツ・ベルリンに居住。

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