開けると音がする
モスラー社の金庫
開けると扉からシュッと音がする。
タネも仕掛けもありません。
この音、優秀な金庫の証拠です。
Photo:Naoto Shoji Text:Ena Sato
Illustration:Naomi Masuda
アメリカの金庫メーカー、モスラー社製で、70~80年前に日本で使われていたもの。
現在は金庫と鍵の博物館所蔵だが、もちろん使える。高さ約87㎝、幅約58㎝、奥行き約52㎝で、重さは約350㎏。錠はダイヤル式。
空気のもれる音は気密性の高さを示す
いい金庫は音でわかります。扉の取っ手をにぎって、そーっと引く。その瞬間、手にちょっと空気抵抗を感じ、シュッと小さな音が聞こえます。金庫内の空気が外に出るときに立てた音です。これは扉がピッタリ閉まっていた、つまり気密性が高い金庫だからこそ出る音です。
「ふつうは何年も使っていると、扉の蝶番(ちょうつがい)にガタがきます。少しずつ扉がかたむいて、ピッタリ閉まらなくなります」と、金庫と鍵の博物館の館長、杉山泰史さんは言います。扉と本体の間に隙間ができると金庫内の気密性が落ち、扉を開けても音はしません。この金庫は70~80年前のものですが、蝶番がしっかりとしていて、優秀な金庫です。
ダイヤル錠を合わせ、扉の取っ手を左に回し手前に引く瞬間、“シュッ”と空気のもれる音がする。
扉と本体をつなぐ「蝶番」の精密さが自慢。扉がキッチリ閉まるので、庫内の気密性が保たれるのだ。
三井本館の地下にモスラー社の大金庫
製造元は19世紀に創業したアメリカの金庫メーカー、モスラー社です。頑丈さが世界的に有名で、東京・日本橋の三井本館の地下にある大金庫は、1929年(昭和4年)から使われています。扉の直径2・5メートル、重さ50トン!この大きな金庫の扉を開けるとき、どんな音がするのでしょうか?
気密性が高いと中に空気が入りにくく、火事にあっても、中身がすぐに燃えるようなことはありません。いつの日か、あなたが金庫を買うときは、ぜひ扉を開ける瞬間に耳をすませてください。空気のもれるかすかな音がすれば、それは精度が高い金庫です。
取材協力
金庫と鍵の博物館館長 杉山泰史[すぎやま・やすし]
金庫と鍵の博物館
東京都墨田区千歳3-4-1 03-3633-9151