4.五十肩
小栗左多里
私はただ、二の腕を細くしたかったのだ。それで筋トレを始め、半年くらいで効果が出てきた。でもある日、左肩がちょっと痛い。近所の病院へ行き、「えっと、二の腕を細くしようと思ってですね…」と動機から説明した。真顔で聞く先生。診断は「ほぼ五十肩」だが、初めてのMRIも撮ることになった。
MRIのベッドに横になると、看護師さんが肩や腰をはじめ、立てた膝の下にもクッションを入れてくれた。なかなか快適。最後に「何かあれば知らせる用」ブザーを渡された。風船みたいに膨らんでいて握ればよく、力が弱くても大丈夫。考えた人天才だ。感動しながら筒の中へ。私は狭い所が少し怖いので「足元は空いてる。足元は空いてる」と心で唱え続けた。中は思ったより空間があって看護師さんの声も聞こえ、無事に生還。結果「典型的な五十肩」と確定して、リハビリ開始となった。また「二の腕を細くしようと思ってですね…」から始めると、整体師さんは「くふふ」と笑った。そして「治らない人はいません」と言ってくれた。でも初期より痛みは増している。大丈夫だろうか。それにマッサージがとても優しい。もう少し強くやってもらいたいと言ってみたが、まだ優しい。もしや史上初の「五十肩が治らない人」になったらどうする…と思って、他の整体院にも行ってみることにした。
整体師さんが私の腕を触って「これは…」と軽く驚いている。私は「はい」と深く頷く。痛い部分を庇っていたため、変な場所に筋肉がついているのだ。細くしようとして、真逆地点に到達。無念だ。
他にも何軒か行ってみた。しかし間もなく全部やめてしまった。痛みがなくなってきたからだ。腕は垂直より上がらず、後ろに回せないのだが、慣れてそれほど困らないので、家での筋トレだけ時々やっている。そう、これを書いている今も治っていない。ただ少し改善されてはきたので、そろそろまた二の腕絞りにトライしたいと思っている。右肩に気をつけながら。
おぐり・さおり
岐阜県出身の漫画家。
著書に「ダーリンは外国人」「フランスで大の字」など。
近著「ダーリンの東京散歩 歩く世界」「手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん」。
2012~2019年までドイツ・ベルリンに居住。