Always Essay 思いがけず・・・ 2.開かずのお風呂場

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2 開かずのお風呂場

先日、台所にいたら階下からガタゴトッと派手めな音がした。数分後に息子がきて「ごめん、お風呂場のドアが開かなくなった」と言った。「ドア閉める時、タオル掛けが倒れて」。なんと。脱衣所の壁に立てかけてあるハシゴ型のタオル掛け。半分に折り畳めるのだが、部屋を出る時に腕に軽く触れた拍子に折り畳まれつつ倒れたらしい。そしてそのサイズが脱衣所の幅とほぼ同じだったようだ。ドア下の隙間1cmから携帯を入れてみると、室内は電気がついていてよく見える。いや消して出てよ…今回は助かるけど。まず下から押し上げようと、スチール製壁かけラックの一部を90度くらい曲げ、隙間から差し込んでグッと上げてみる。がっちりハマっている左の脚は壁際で難しく、少し浮いている右に当てたものの動くほどの力は加えられず。次に、上から荷造りテープを脚に引っ掛けて持ち上げてみた。でも抜けてしまったり、テープが切れたり。なので釣り糸や、100均でいろいろ買って創意工夫の2日間を過ごした。が、無理だったので賃貸の管理事務所に業者さんを呼んでもらった。

業者さんと一緒に、今一度引っ張り上げたりしつつ話をしていると、彼が不意に「ドイツにいる美術作家の友達が…」と言った。「え、ドイツのどこですか?」「ベルリンです」。あれ、世界ってうちの町内くらいの大きさだっけ? ロンドンならわかるけどベルリンだし。美術系なら絶対共通の知り合いいるし。さらに彼の本業は家具などの制作で、大学も同じだった。専攻や歳が少し違うけど、学生時代の部屋も徒歩2~3分の近さ。楽しい驚きで、凹んでいた気持ちが少し上向いた。さて結局ドアは電ノコで一部を切って、手を入れてタオル掛けを外した。かなり力が必要だった。

その後、まだ切った部分を仮のテープで補修したままである。家財保険がおりず実費と決定してまた凹んだからだ。いやしかし、こうしてエッセイに書けてラッキーではある。タオル掛けは折れるところに割り箸を当て、今日も立てかけられている。

おぐり・さおり

岐阜県出身の漫画家。
著書に「ダーリンは外国人」「フランスで大の字」など。
近著「ダーリンの東京散歩 歩く世界」「手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん」。
2012~2019年までドイツ・ベルリンに居住。

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