
「絶滅危惧種」を守る人

神戸どうぶつ王国
動物管理課 係長
田中 秀太さん
兵庫県神戸市にある、神戸どうぶつ王国。「花と動物と人とのふれあい共生」をテーマに、生物多様性保全に取り組んでいます。絶滅危惧種動物の飼育・繁殖を行う田中秀太さんに、今、守っていきたいことを伺いました。
動物と人との橋渡し役
希少種動物の繁殖・飼育に成功も
「いま撮影するなら、アカコンゴウインコのラッシーがちょうどいいと思いますよ」 にこやかに教えてくれたのは、「神戸どうぶつ王国」の動物管理課係長を務める田中秀太さん。
バードパフォーマーでもあるだけに、鳥の生態に詳しい。 バードパフォーマーは、大型のインコやハヤブサたちと信頼関係を築き、その魅力を最大限に引き出すパフォーマンスを行う。
鳥たちが翼を広げ、風を掴み、優雅かつダイナミックに空を飛び回る姿は、鳥本来の力強さに満ちている。飼育下では滅多に見ることのできないパフォーマンスに、観客の心は惹きつけられる。
「あえて〈ショー〉ではなく〈パフォーマンス〉と呼びます。見世物ではなく、〈動物本来の姿〉をお客様に見てほしいという思いからです。その感動が、野生動物たちの生きる環境への興味や、環境問題への関心の扉を開いてくれれば嬉しいですね」
アカコンゴウインコもまた、環境破壊や密猟により個体数が減少しつつある。愛情を込めて語る眼差しには、使命感が宿っていた。
動物の種と生息環境を守りたい
田中さんのもうひとつの顔は、「アマミトゲネズミ」という希少動物の種を守る人だ。
アマミトゲネズミは、げっ歯目ネズミ科の日本の固有種だ。奄美大島の森林に生息し、硬いトゲ状の毛が背中を覆っていることが名前の由来となった。近年は環境の変化や外来生物により数を減らし、「国内希少野生動植物種」に指定された天然記念物でもある。
神戸どうぶつ王国は、環境省と日本動物園水族館協会(JAZA)による「絶滅危惧種トゲネズミ類※生息域外保全実施計画」に2019年7月より参画。田中さんが神戸どうぶつ王国の中心となって他7施設と連携し、アマミトゲネズミの飼育・繁殖に取り組んできた。
「未知の動物を相手に、手探りの状態からスタートしました。命を扱うだけに、最初はプレッシャーに押しつぶされそうでしたが、多くの方に支えられて繁殖に成功しました」
奄美大島に通い、地元住民の協力を得るところから始まったこの取り組み。「探究心、向上心、何ごとも楽しむ心」を大切にする田中さんだからこそ、大きなプレッシャーを乗り越えられたにちがいない。地道な努力が実を結び、2024年4月からアマミトゲネズミの一般公開が始まった。
※生息域外保全・・・生息地域の外で行う保全活動のこと。生息地域内での保全が困難な場合に行われる。
前園長から受け継いだ動物への愛情
播かれた種を未来へ繋いでいく
田中さんが動物関連の専門学校に入学したのは、24歳のとき。決して早いスタートではなかった。一度は会社員として働いたものの、「本当にやりたいことは何だろう」と自問してみると、幼い頃から好きだった動物の世界が広がっていた。「この道を選んだことに、まったく後悔はありません。毎日何かしら変化があって、達成感や充実感を日々味わえます」と、少年のように目を輝かせる。
現在、神戸どうぶつ王国には年間を通して1000種類、1万株の花々が咲き誇り、150種800頭羽の動物たちが共存する。
大切にしているのは、生息環境を再現した「ランドスケープ」という展示方法。現地に近い植物を植え、動物の行動に合わせた環境を創る。飼育員だけでなく植物専門のスタッフも配置する力の入れようで、来園者も動植物を身近に感じることができる。
「佐藤哲也前園長(2024年3月に急逝)の方針なんです。動物園の責務として、生物多様性や環境の保全にも力を入れています。佐藤さんには〈動物園とはどうあるべきか。動物とどう向き合うべきか〉というスピリットを一から叩きこまれました。次は、自分が後輩たちに示していく番です」
人を育てるのも同じくらい難しいんですけどね、と照れ笑いする田中さん。前園長の教えを次代に繋ぎ、スタッフ一丸となって日本一の動物園を目指していく。

生息地域の外で行う「生息域外保全」にも積極的に取り組んでいる。