鍵ものがたり vol.2

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鉄でできた芸術品

家具調金庫

一見したところチェストですが、これが立派な金庫です。
どこに鍵穴があるか、わかりますか?
Photo:Shoji Naoto Text:Ena Sato Illustration:Naomi Masuda

フランスの金庫メーカーFICHET(フィッシェ)が、1920年~30年代につくったとされる。
高さ約102㎝×ヨコ約64㎝×奥行き約51㎝。
約500㎏。
鉄製で全体がえんじ色に塗装されている。

普通の金庫を囮(おとり)にして使われていた?

昭和初期に使われていた金庫で、かなり高度なカムフラージュを施した逸品です。
表に見える引き出しの鍵穴はすべてダミー。一番上の引き出しの下端をグイッと押し下げると、その向こうに本物の鍵穴が現れるのです。
「金庫と鍵の博物館」の杉山泰史さんは、家具調ならではの使い方があるといいます。「見た目は家具でも鉄製なので、触れれば金庫だとわかります。そこでもうひとつ普通の金庫を置き、取られてもいい程度のお金を入れておくのです。泥棒は普通の金庫に目をつけるので、家具調金庫には手をつけないでしょう」
重要な財産は家具調金庫の中で安全というわけです。家具調金庫の持ち主は、相当な資産家といえそうです。


一番上の引き出し(に見える)の下端を押し下げると2つの鍵穴が現れる。二重鍵なのだ。


鍵をあけると、扉が手前に開く。中は普通の金庫と同じような構造。

金庫と鍵の博物館に収蔵された深いワケ

この金庫は日本のある会社の備品でしたが、経理担当者が退職する際、会社から譲り受けたそうです。この人が中に10万円の貯金証書を入れたまま鍵を紛失。そこで金庫の開錠のプロだった杉山さんの父に依頼がありました。しかしその費用が10万円。お互い困ってしまいましたが、この“チェスト”がすっかり気に入った杉山さんの父は、こう提案しました。「無料で開けましょう。その代わり、この金庫を譲ってもらえませんか?」
昭和40年代の話です。それ以来、博物館に重さ500キロのチェストがあるのです。

取材協力

金庫と鍵の博物館館長 杉山泰史[すぎやま・やすし]

金庫と鍵の博物館

東京都墨田区千歳3-4-1 03-3633-9151

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