江戸時代のオートロック
蔵の鍵
江戸時代、蔵の中の引き戸に使われていた鍵。
仕組みはシンプルでも、奥の深い鍵です。
Photo:Shoji Naoto Text:Ena Sato Illustration:Naomi Masuda
ちょっと変わった孫の手のように見える鍵。
鍵の先端の形状、コブの有無と形状、長さ。
この3つの条件が合わないと錠は開きません。
材質は鉄で、取っ手の部分は木です。
長さ20~30㎝もある大きな鍵です。
表の錠前を破っても、次は引き戸が待っている
時代劇では、盗賊が蔵の扉の錠前を破って、すぐさま侵入していく場面がよく見られます。実際には、扉を破っても、入るとすぐ内扉の引き戸がありました。いわば二重扉。もちろん、引き戸にも錠がしっかりかかっていました。
仕組みは下のイラストのように、戸の内側にしつらえた「落とし」を上げ下げするだけのシンプルなもの。しかし、その鍵は3つの条件がそろわないと開かない仕掛けになっています。鍵を閉めるときは、引き戸をスライドさせるだけです。落としが自然に穴に落ちるオートロック型でした。
錠の開け方
手前が蔵の内側。「落とし」が引き戸のレールの穴にはまっていると引き戸は開かない。開けるときは、引き戸の鍵穴から鍵を差し込み、先端を落としの溝にはめる。
鍵を回すと、落としが穴から持ち上がって解錠。閉めるときは鍵を落としから外し、引き戸を閉めるだけ。
落としが自然にレールの穴に落ちるオートロック。
長さ、コブ、先端の形状3つそろって初めて開く
鍵の条件の1つめは、先端の形。落としには、鍵の先端が引っ掛かるように溝が彫られています。溝と鍵の先端の形がかみ合わないと、鍵は回せません。正方形、二股など、形状はさまざまでした。
2つめは鍵の長さ。鍵穴から差し込んで落としの溝に届かなくてはいけません。
3つめはコブの形。鍵穴と落としの間に障害物を置いた、より複雑な錠もありました。障害物を回避するには写真中央のようにコブが必要です。以上3つの条件がピタリと合って初めて錠は開きます。
鍵は持ち歩くには大きすぎ、おそらく母屋に管理されていたのでしょう。金庫と鍵の博物館の杉山泰史さんは「盗賊はまず母屋に押し入って、この鍵を盗んでから蔵に向かったはず」と推測しています。
取材協力
金庫と鍵の博物館館長 杉山泰史[すぎやま・やすし]
金庫と鍵の博物館
東京都墨田区千歳3-4-1 03-3633-9151