下駄箱の鍵
松竹錠
銭湯や居酒屋の下駄箱でよく見る鍵。
番号のついた木の札は日本独特。
いったいどんな仕組みに?
Photo:Naoto Shoji
Illustration :Naomi Masuda
銀色のカバーにある飾りは松の葉?竹の葉? 東京にあった松竹錠工業が作っていた「松竹錠」は、下駄箱の鍵の代名詞的存在。木札が合い鍵。スポッと下まで入ると錠が開く。木札の裏には2本のスリット。この位置と長さが合い鍵ごとに違う。
2本のスリットは何のために?
木製の鍵。下駄箱と同じ番号が書いてありますね。使ったことがありますか?
この仕組みは、下のイラストのようにシンプルです。ポイントは、鍵の中に2つの突起物がくっついていること。突起物の位置は外からは見えませんが、左寄りだったり右寄りだったり。手前だったり奥だったり。下駄箱の数だけ、突起物の位置が少しずつ違うのです。
下駄箱の鍵のように、障害物(この場合は突起)をよけて閂(かんぬき)を開ける鍵のことを、西洋では「ウォード錠」といい、歴史の古い鍵のひとつです。
「障害物をよける」ことは、鍵の原理とも言えます。南京錠や自転車の鍵にも、ウォード錠の仲間がたくさんあります。
松竹錠の基本構造
左上の写真の銀色のカバーの中身の図解。両側にひとつずつポッチがついている。 合い鍵(木札)を差し込み、ポッチを下まで押し込むと、閂(かんぬき)が引っ込んで鍵が開く仕組み。合い鍵の裏には中央の突起物を避けるためにスリットが入っている。突起物の位置が鍵によって異なるので、別の合い鍵では入らないのだ。
銭湯が減っても消えない日本ならではの鍵
下駄箱の鍵の代名詞「松竹錠」を作っていた会社は、今はもうありません。
銭湯がどんどん減ってしまったことが、ひとつの理由と考えられます。1980年には全国に約1万6000件あった銭湯が、今では約5000件ほどに減ってしまいました。でも下駄箱の鍵は、今も健在です。雨の日にビルの入り口に置かれる傘立てスタンドの鍵も、下駄箱の鍵と同じ仕組み。合い鍵が木製ではなく、薄い金属製です。和風レストランや旅館の温泉でも、よく見かけますよね。靴を脱ぐ習慣のある日本ですから、たとえ町の銭湯が減っても、下駄箱の鍵が消えることはないでしょう。
取材協力
金庫と鍵の博物館館長 杉山泰史[すぎやま・やすし]
金庫と鍵の博物館
東京都墨田区千歳3-4-1 03-3633-9151